――所詮男なんて誰でも一緒なんだ…
愛するだけ、無駄なんだ…――

06『全てを』


「少尉。今日私とデートしないか?」


そう聞いてきたのは東方司令部の大佐。ロイ・マスタング。
女性なら誰でも声を掛ける人。
私の一番嫌いな人物。


「いい加減にしてください。
私は貴方と食事するほど暇じゃないんです。」


そっけなく言っても、彼は一向に引かない。
この所毎日のようにデートに誘われる。


「良いではないか。私と食事するくらい…」


「貴方は何を目当てで私を誘ってます?」


じっと大佐の目を見て、言った。


「何をと言われても…」


「私をそこら辺の女性と一緒にしないでください。」


どうせ、男なんて体目当て。
この男だって例外じゃない。
毎日のように違う女性と夜を共にしている。


「つれないな…君は。」


「それで結構です。
言って置きますけど、私は貴方みたいなタイプが一番嫌いです。」


そう言い残して私は執務室を出て行った。




何を言っても、彼女には私の気持ちは届かない。


「大佐、またフラれたんスか?」


そう言って面白そうに私に近づいてくるハボック。
消し炭にしてやろうか…


「大佐も懲りないですね。
いい加減あきらめたらどうですか?」


諦められるか。
そう、これは私の片思い。
どう足掻いてもには私の気持ちは届かない。


「そういえば…」


「どうした?ハボック?」


「この頃、きちんと仕事してますよね。大佐。
それに、この間女性に声掛けられても、デートの誘い断ってましたね…」


「それがどうした?」


ハボックはここで何かを感づいたらしい。


「もしかして…大佐、本命って…」


「わかったならそれ以上言うな、ハボック。
消し炭にするぞ。」


発火布のついた右手をハボックの方に向けると、ハボックは黙った。
まったく…


「今日の仕事は終わった。
私は帰らせてもらう。」


これ以上ハボックと話したところで何の特にもならん。
コートを手に取り、私は家路を辿った。




「はぁ〜〜〜…」


零れるのはため息のみ。
どうしたらは私に振り向いてくれるのか…


「ん?」


駅の出入り口に佇むを見つけた。
誰か人でも待っているのだろうか…?
私は気づかれないようにに近づいた。


「……」


暫くすると、一人の男がに近づいて来た。


「ねぇ、君。今暇?暇なら一緒に遊ばない?」


どう見ても私と同い年かそれ以上の男。


「…お金なら払うからさ。」


そう言った男はの腕を取った。


「へ〜〜…いくら?」


の言葉に私は驚いた。


「これでどう?」


男は指を二本立てに見せた。


「…他当たってくれる?私、そんなに安くないから。」


そう言っては腕を振り解いた。


「じゃぁさ、これでどう?」


「いい加減にして。」


「っ!!!!」


私はそう言って彼女の肩を抱いた。


「…大佐。」


「悪いが、私の方が先約でね。
引き下がってくれないか?」


そう言って私は男を睨み付けた。
男はそんな私の行動に怖がったのか、早々に退散した。


「…大佐、余計な事しないでください。」


「何故、こんな事をしている?」


私の問いには答えずに、は私の腕を振り解いた。


「貴方には関係ないでしょう?」


私を睨む様な目つきで見上げてくる


「…そんなに金が欲しいのか?」


「貴方には関係ないと…」


「いくらならいいんだ?」


「は…?」


「いくらなら君は私と一緒にいてくれる?」


呆気に取られて
私自身、こんな行動を取った事を驚いている。


「さっきの男よりも上なら良いですよ?」


見上げてくるの表情が微笑みに変わった。


「いいだろう。」


そう言って、私はを自分の家に招いた。




事情後、私はベッドの中で言った。


「お金払ってまで私を抱きたかったんですか?」


自嘲気味に笑いを浮かべ、大佐に言った。
返答に困った様子の大佐。


「やっぱり、所詮男なんて皆一緒なんですね。」


そう言って私は体を起こした。


「男なんて皆同じ。見ているの物は体のみ。」


「違う!!私は…!!」


「違う?何が?
『好き』だの『愛してる』だの言って、男は誰でも抱けちゃうんですからね。
ま、私も例外じゃないです…」


途中まで言った私の言葉を、彼は唇で塞いだ。


「…キスは無しだって言いませんでしたか?」


私は睨みつけるように大佐を見上げた。


「私は…君の事が好きなんだ。」


「今更それを信じろと?」


「信じなくてもいい…ただ私は…」


俯く大佐。彼が本気だって事は始めから解っていた。
最近、女性とデートしなくなった事はハボック少尉から聞いていた。


「では、一つ質問して良いですか?何故私を買ったんですか?」


「…その方法しか浮かばなかった…
体を要求しても、心を手に入れることは無理だと解っていたのにな…」


抱き締めているから彼の表情は解らないけれど、きっと自嘲気味に微笑んでるんだろうな。


「それに…他の男に触れさせるのも嫌だったんだ…」


「大佐。最後のは彼氏が言う台詞じゃないですか?」


彼のそんな言葉に私は思わず笑みを漏らした。
あぁ、この人は周りの男と違う。
そう感じた。


…私と付き合って貰えないか?」


この言葉を聞くのは何度目になるだろう。
でも、何時も聞く声と違う、真剣な声色。
そうか…私はこの人の事…


「私と付き合うならそれなりに条件があります。」


「何だ?」


そう言って私は体を離した。


「まず一つ目は期日内に仕事を終わらせる事。
二つ目、女性をナンパしない事。勿論、誘われても付いて行くのは駄目です。
それと三つ目…」


私はここで言葉を切って、彼を見上げた。


そして彼の目を見て、私は微笑んだ。
ずっと昔に捨てたはずの感情。その感情を取り戻してくれた彼に。


「ずっと私だけを見て、私だけを愛する事。
これが守れるなら付き合っても良いですよ?」


「あぁ…必ず守る。
君だけを見て、君だけを愛する。…私の全てを君に捧げよう。」


私は…ずっと好きだったのかもしれない。
今なら心から言える。


「ロイ。愛してるわ。」


「あぁ…私も愛している。」




この気持ちに気付かせてくれてありがとう。
『愛する』なんて感情、私は昔に捨てた筈だったのに。
人を心から愛しいと感じた事は無かった。
ありがとう、ロイ。
私も貴方に全てを捧げます。
だから貴方も、私の事ずっと、ずっと愛してね。




FIN