「少尉。今日私とデートしないか?」
そう聞いてきたのは東方司令部の大佐。ロイ・マスタング。
女性なら誰でも声を掛ける人。
私の一番嫌いな人物。
「いい加減にしてください。
私は貴方と食事するほど暇じゃないんです。」
そっけなく言っても、彼は一向に引かない。
この所毎日のようにデートに誘われる。
「良いではないか。私と食事するくらい…」
「貴方は何を目当てで私を誘ってます?」
じっと大佐の目を見て、言った。
「何をと言われても…」
「私をそこら辺の女性と一緒にしないでください。」
どうせ、男なんて体目当て。
この男だって例外じゃない。
毎日のように違う女性と夜を共にしている。
「つれないな…君は。」
「それで結構です。
言って置きますけど、私は貴方みたいなタイプが一番嫌いです。」
そう言い残して私は執務室を出て行った。
何を言っても、彼女には私の気持ちは届かない。
「大佐、またフラれたんスか?」
そう言って面白そうに私に近づいてくるハボック。
消し炭にしてやろうか…
「大佐も懲りないですね。
いい加減あきらめたらどうですか?」
諦められるか。
そう、これは私の片思い。
どう足掻いてもには私の気持ちは届かない。
「そういえば…」
「どうした?ハボック?」
「この頃、きちんと仕事してますよね。大佐。
それに、この間女性に声掛けられても、デートの誘い断ってましたね…」
「それがどうした?」
ハボックはここで何かを感づいたらしい。
「もしかして…大佐、本命って…」
「わかったならそれ以上言うな、ハボック。
消し炭にするぞ。」
発火布のついた右手をハボックの方に向けると、ハボックは黙った。
まったく…
「今日の仕事は終わった。
私は帰らせてもらう。」
これ以上ハボックと話したところで何の特にもならん。
コートを手に取り、私は家路を辿った。
「はぁ〜〜〜…」
零れるのはため息のみ。
どうしたらは私に振り向いてくれるのか…
「ん?」
駅の出入り口に佇むを見つけた。
誰か人でも待っているのだろうか…?
私は気づかれないようにに近づいた。
「……」
暫くすると、一人の男がに近づいて来た。
「ねぇ、君。今暇?暇なら一緒に遊ばない?」
どう見ても私と同い年かそれ以上の男。
「…お金なら払うからさ。」
そう言った男はの腕を取った。
「へ〜〜…いくら?」
の言葉に私は驚いた。
「これでどう?」
男は指を二本立てに見せた。
「…他当たってくれる?私、そんなに安くないから。」
そう言っては腕を振り解いた。
「じゃぁさ、これでどう?」
「いい加減にして。」
「っ!!!!」
私はそう言って彼女の肩を抱いた。
「…大佐。」
「悪いが、私の方が先約でね。
引き下がってくれないか?」
そう言って私は男を睨み付けた。
男はそんな私の行動に怖がったのか、早々に退散した。
「…大佐、余計な事しないでください。」
「何故、こんな事をしている?」
私の問いには答えずに、は私の腕を振り解いた。
「貴方には関係ないでしょう?」
私を睨む様な目つきで見上げてくる。
「…そんなに金が欲しいのか?」
「貴方には関係ないと…」
「いくらならいいんだ?」
「は…?」
「いくらなら君は私と一緒にいてくれる?」
呆気に取られて。
私自身、こんな行動を取った事を驚いている。
「さっきの男よりも上なら良いですよ?」
見上げてくるの表情が微笑みに変わった。
「いいだろう。」
そう言って、私はを自分の家に招いた。
事情後、私はベッドの中で言った。
「お金払ってまで私を抱きたかったんですか?」
自嘲気味に笑いを浮かべ、大佐に言った。
返答に困った様子の大佐。
「やっぱり、所詮男なんて皆一緒なんですね。」
そう言って私は体を起こした。
「男なんて皆同じ。見ているの物は体のみ。」
「違う!!私は…!!」
「違う?何が?
『好き』だの『愛してる』だの言って、男は誰でも抱けちゃうんですからね。
ま、私も例外じゃないです…」
途中まで言った私の言葉を、彼は唇で塞いだ。
「…キスは無しだって言いませんでしたか?」
私は睨みつけるように大佐を見上げた。
「私は…君の事が好きなんだ。」
「今更それを信じろと?」
「信じなくてもいい…ただ私は…」
俯く大佐。彼が本気だって事は始めから解っていた。
最近、女性とデートしなくなった事はハボック少尉から聞いていた。
「では、一つ質問して良いですか?何故私を買ったんですか?」
「…その方法しか浮かばなかった…
体を要求しても、心を手に入れることは無理だと解っていたのにな…」
抱き締めているから彼の表情は解らないけれど、きっと自嘲気味に微笑んでるんだろうな。
「それに…他の男に触れさせるのも嫌だったんだ…」
「大佐。最後のは彼氏が言う台詞じゃないですか?」
彼のそんな言葉に私は思わず笑みを漏らした。
あぁ、この人は周りの男と違う。
そう感じた。
「…私と付き合って貰えないか?」
この言葉を聞くのは何度目になるだろう。
でも、何時も聞く声と違う、真剣な声色。
そうか…私はこの人の事…
「私と付き合うならそれなりに条件があります。」
「何だ?」
そう言って私は体を離した。
「まず一つ目は期日内に仕事を終わらせる事。
二つ目、女性をナンパしない事。勿論、誘われても付いて行くのは駄目です。
それと三つ目…」
私はここで言葉を切って、彼を見上げた。
そして彼の目を見て、私は微笑んだ。
ずっと昔に捨てたはずの感情。その感情を取り戻してくれた彼に。
「ずっと私だけを見て、私だけを愛する事。
これが守れるなら付き合っても良いですよ?」
「あぁ…必ず守る。
君だけを見て、君だけを愛する。…私の全てを君に捧げよう。」
私は…ずっと好きだったのかもしれない。
今なら心から言える。
「ロイ。愛してるわ。」
「あぁ…私も愛している。」
この気持ちに気付かせてくれてありがとう。
『愛する』なんて感情、私は昔に捨てた筈だったのに。
人を心から愛しいと感じた事は無かった。
ありがとう、ロイ。
私も貴方に全てを捧げます。
だから貴方も、私の事ずっと、ずっと愛してね。
FIN
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