妙な胸騒ぎを感じ、ハボックは彼女の自宅に駆けつけた。


10『さよなら』


それは数分前の事。


「何で非番なのに出なくちゃいけないんスか?」


両手に書類を抱え、ロイの前を行き来するハボック。


「暇してるんだから良いだろう?ハボック。」


「今日はとデートの約束だったんスよ!!あいつも非番だから。」


ドンと音を立て、手に持っていた書類をロイの座る机の上に置いた。


「さっさと終らせたい・・・」


半泣き状態のハボック。突如、彼の鼓動が早くなった。そして、彼の最も最愛の人の声、『さようなら』と聞こえた。一瞬の内に泣き顔から真剣な表情に変わった。


「どうした?ハボック?」


「・・・何でも無いっスよ・・・」


その後、全く仕事に手が付かず、ロイに許可を得ての家に向う事にした。




彼の胸騒ぎは消えることが無かった。寧ろ悪い方向へ向っていった。


!!」


彼女の家に着き、勢いよくドアを開けた。だが、家の中からは何も返事が無い。
・・・?」


彼は耳を澄ませた。聴こえて来たのは水の流れる音。


(風呂場・・・・?)


ゆっくりと、でも確実に足を風呂場に向けた。確かに音のしていた所は此処だった。ドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を開いた。


「・・・・!!」


ハボックの目の前に広がったのは血の海。そして壁に凭れかかる様に横たわった。彼女の右手にはナイフが握られていた。そして左腕には無数の傷跡。左腕は浴槽に浸かったまま血を流していた。


!!」


彼は急いで駆け寄っての左腕を浴槽から上げた。流れる血。ハボックの衣服を鮮血が染めていく。


「何で・・・こんな事・・・・!!」


何も反応しない。既に息をしていなかった。




リストカットシンドローム。それは無意識の内にやってしまう。緊張・ストレス・無力感・罪悪感・誰にも必要とされない自分。その全てから解放されたいが為にしてしまう行為。彼女も前々からやっていた行為だった。



彼は自分を呪った。何も出来ない、愛する人の気持ちも解からない自分を。

その日から、新たなリストカットの犠牲者が出る事となった・・・




FIN