何かを得る為には、同等の代価が必要になる。錬金術における等価交換の法則。何故、私はあの時気付いてやれなかった・・・気付いていれば彼女は・・・
東方司令部勤務、ロイ・マスタング中佐。彼は仕事が終わり、家路についた。
「。ただいま。」
しかし、家の中からは誰の声もしない。
「・・・?」
不審に思い、彼は家中を探し回った。
(何処にも居ない・・・)
こんな時間に出掛ける筈が無い。そう思い、彼はの部屋に入った。
「これは・・・?」
彼女の机の上に置かれた、人体錬成に関する研究書。そして、イーストシティの地図と地図に書かれた丸印。
「・・・まさか!!」
ロイは急いで丸印の書かれた建物に向った。
今は使われていない建物。そこで幼い頃兄弟で遊んだ記憶。
建物が目の前に見えてきた。
12『等価交換』
「・・・」
無事で居てくれ・・・彼はそう思いながら全力で走った。
「!!」
ロイが建物のドアを開け放った。そこに見えたのは血塗れのと、人の形をしていない物。
「おい!!大丈夫か!!」
を抱き上げ必死に呼びかけた。左肩から持っていかれた腕と、膝より少し上から持っていかれた右足。
「お・・・兄・・・ちゃん・・・?」
は残っている右腕でロイの頬に手を当てた。
「今すぐ病院に連れて行ってやる・・・それまで死ぬんじゃないぞ!!」
ロイは自分の着ていたコートをに巻き付け、知人の病院に駆け込んだ。
奇跡的に一命を取り留めた。彼女の目は、死んだような眼をしていた。
「を・・・このままにしておく気か?」
病院に駆けつけたロイの親友、ヒューズ。の見舞いにきていたのだ。
「いや・・・でも、どうすれば良いのか・・・」
「・・・を軍に入れる事は考えているのか?」
「!!」
彼の言葉に驚くロイ。
「何か目的が決まれば、彼奴だって変わる。そうだろう?」
「だが・・・」
軍の狗になれば、何時かは戦争に駆り出される。
「不安なのは解かる。だが、それを決めるのは自身だ。」
ヒューズはそう言い残すと、病院室から出ようとした。
「彼奴が決心したら連絡してくれ。何か力になる。」
「あぁ・・・」
ロイは短い返事だけ返した。そして立ち上がり、の居る病室に向った。
「、入るぞ。」
静かに扉を開けた。はただ、窓の外を見ていた。
「・・・国家錬金術師の資格を取らないか?」
ロイの言葉に今まで窓の外を見ていたが振り向いた。
「国家・・・錬金術師・・・?」
「今のお前の実力ならなれる。どうする?」
彼女は下を見て考え込んだ。
「・・・お兄ちゃん・・・」
「何だ?」
暫くの沈黙の後、は口を開いた。
「国家資格を取って、軍に入ればお兄ちゃんの補佐できるかな・・・?」
「不可能では無い。」
「なら・・・私・・・国家資格取る・・・お兄ちゃんの役に立ちたい・・・」
はロイを見つめた。見つめた彼女の瞳はさっきまでとは違う眼をしていた。
「だから、お兄ちゃん。自由に動ける様に機械鎧を付けて。」
「後悔はしないか?」
力強く頷く。その姿にホッとするロイ。
「解かった。腕の良い技師を探しておこう。それまではゆっくりしているんだ。」
「うん。」
は満面の笑みで答えた。
数年後、の無くなった左腕と右足は機械鎧に変わり、体術の習得に励んだ。
だが、ロイは今も悔やんでいる。あの時気付いてやれればは機械鎧なんてつけなくてすんだのに、普通の女の子として生活出来たのに・・・と。だが、ロイのそんな不安を掻き消すように、は毎日のように笑って居た。それだけが彼にとっての救いにもなった。
FIN