――・・・私が大佐になった時は・・・その時は・・・――


16『約束』


私がある組織のアジトに奇襲を掛ける前日、貴方は必死で私を止めた。


「止めるんだ!!少佐!!」


「そんな事言われても、もう決定した事です。早めに彼らを止めなければ、街の安全は保障できません!!」


此処数週間続いているテロ攻撃・・・軍人が目的らしいが、街の人たちも犠牲にした無差別殺人。


「だが・・・君が行かなくても・・・・」


「私も軍人です。大丈夫ですよ。ご心配無く。」


・・・」


彼が私を呼ぶ名を変えた・・・この瞬間、私達は上司と部下の関係ではなく、恋人同士になれる。


「ロイ・・・本当に心配しないで。大丈夫だから。」


私はそう言いながらロイを抱きしめた。


「でも、私は心配だ・・・君が殺されるかもしれないと・・・・」


「じゃぁ、約束して。」


「約束?」


私は右手の小指をロイに差し出した。


「私が危なくなったら助けに来て。」


ロイの顔が少しだけ優しい微笑みに変わった。そして、自分の右手の小指を私の小指に絡めた。


「約束する。だが、も一つ約束してくれ。」


「何?」


首を傾げる私を、ロイは切ない顔で抱きしめた。


「絶対死ぬな。それが、私との約束だ。」


「勿論。こんな上司、置き去りにしてたまるもんですか。」


私は満面の笑みで答えた。ロイも安心したのか、奇襲の許可を出してくれた。
でも・・・その約束は守られる事が無かった・・・


思ったより敵が強くて、正直梃子摺った。私の身体には幾つもの傷。そして、足元には無数の死体。軍人と敵の屍・・・そして赤く染まる床・・・


「よお・・・軍人さんよ。もう終わりか?」


不適に笑うテロの頭。殺される!!そう悟った。


「女に銃を向けるのは趣味じゃねぇが・・・死んで貰う。」


銃弾が私に向けて放たれた。思わず目を瞑った。


!!!」


ロイの叫び声が聞こえた。目を開けて見ると彼は私の前に居た。


「ロイ・・・・?」


血塗れで倒れるロイ。目の前が真っ白になった。無我夢中でロイの持っていた銃を取り、銃弾が無くなるまで敵に向かって打った。
蜂の巣とはこの事を言うのだろうか・・・血塗れになった男は、そのまま床に倒れた。


「ロイ!!!」


私は目の前で倒れているロイを抱き上げた。


「すまない・・・・助けに来るのが遅れてしまった・・・」


弱々しい彼の声・・・私は必死に首を振った。


「そんな事無いよ!!」


治療系の錬金術を少しだけ心得ていた私は、必死にロイの傷口を塞ごうと頑張った。徐々に塞がる傷口。


・・・すまない・・・」


彼の声が凄く悲しげで、辛そうに聞こえた。


「私なら大丈夫だから。」


数分、私は錬金術を使った。彼の傷口は綺麗に塞ぐ事が出来たが、私の出血の量が激しすぎて、そのまま意識を手放した。




気が付いたらそこは真っ白な天井。恐らく病院だろう。


「気が付いたか?」


「ロイ・・・」


「まだ寝てろ。傷が痛むだろう?」


起き上がろうとする私を、彼は心配した。


「大丈夫。これぐらい。」


「全く・・・私の事ばかり心配しないで、自分の身体も心配してもらいたいな・・・」


溜め息混じりのロイの声。私は苦笑するしか出来なかった。そんな私を彼は優しく抱きしめてくれた。


「君が生きてて本当に良かった・・・」


「ロイ・・・」


「今度無茶な真似をしたら、今度は消し炭にするからな。」


本気なのか冗談なのか解からないロイの声。思わず笑ってしまった。


「じゃぁ、また無茶したらロイが助けに来てね。」


笑いながら私は言った。彼の顔の笑顔だった。


「その前に・・・私との約束を守って貰おうか?」


そう言うと、ロイはポケットから小さい箱を取り出した。その中に入っていたのは、綺麗な紫水晶の指輪。


「今回の事件の解決で、君は中佐になった。君との約束を果たす日だが・・・」


昔、ロイと約束をした事・・・『私が大佐になったら結婚しよう。』
その条件に、私は『じゃぁ、私が中佐になったらね』と付け加えた。


・・・君の答えは?」


私は静かに頷いた。そして彼は私に優しいキスをくれた。




数ヵ月後、退院した私は彼との結婚式を挙げた。




FIN