『国家資格取る。』

 そう俺が言ったのは6年前の事。
 軍の狗となり、何時か俺も戦場に行くんだろ・・・
 でも、俺はその道を選んだんだ・・・
 何も後悔しないから。


25『もういいよ』


「ただいま〜〜〜。」

何時も通り俺は勤務時間内に仕事が終って家のドアを開けた。

「あれ?兄貴?」

何時もなら『お帰りvVvV』とか言って玄関に出迎えに来るくせに、今日に限ってない。
・・・デートでも行ったのかな?

「って、靴あるし。」

って事は家に居るって事で・・・
んな事考えてても仕方ないから、取り敢えず兄貴の居そうなリビングに行ってみた。

「・・・居ない。」

リビングに兄貴の姿は見えなかった。
・・・ホント、何処に行ったんだ?

「部屋にでも居るのか?」

兄貴が居そうな場所を手当たり次第探した。

「・・・んなとこに居たよι」

兄貴が居た場所は、俺の部屋の隣・・・錬金術の本とか、資料とか詰め込んでる部屋で寝てた。

「兄貴、こんな所で寝てると風邪引くぞ。」

揺さ振り起こしても反応はなし。
・・・切り刻むか?(怒)

「・・・だ・・・」

「え・・・?」

『だ』って何だ?
取り敢えず、もう一回揺さ振る。

「兄貴、起きろって。」

何度揺さ振っても起きる気配無し。
兄貴の眉間に少しずつ皺が寄ってきてる。

「嫌・・・だ・・・」

「あに・・・き・・・?」

ヤバイ。魘されてるよ。

「兄貴、起きろっつってんだろう!!」

取り敢えず、耳元で大声を出してみた。
ビクっと兄貴の身体が震え、起き上がった。

――ガチャ!!

兄貴に銃を突きつけられ、咄嗟の判断に遅れた。
次の瞬間には、銃声が部屋に響き渡った。

「っ!!」

・・・?」

取り敢えずは避けきれたが、俺の左こめかみには一筋の傷が出来た。

「って〜〜〜・・・・」

痛みに耐えられなかった俺は、こめかみを抑え蹲った。

!!」

震える手から銃が落ち、俺の肩を掴んだ。

「大丈夫か?!」

「自分から発砲して、『大丈夫か?!』は無いだろう・・・」

少し呆れ笑いをしながら兄貴に言った。

「・・・すまない。」

まだ少し震えている兄貴の肩。

「心配すんなって。俺は大丈夫だから。」

俯く兄貴を俺は抱き締めた。

「イシュバールの事、夢に見たんだろう?なら仕方ねぇって。」

「・・・・・・」

昔はよくあった。
魘される兄貴を起こした俺を、敵兵と間違って発砲。
発砲の方がまだいい。焔の錬成なんてされたら確実にあの世逝き。
ま、銃の方が幾分か避け易いしな。
師匠の修行受けてれば・・・な。

「でも、久しぶりに兄貴に発砲されたなぁ・・・」

此処何年かは夢に魘される事があっても、発砲まではいかなかったからな。

「本当にすまない・・・」

「気にすんなって。んな酷くねぇし。」

酷くないて言ってても、俺の傷口からは止めど無く血が出てきている。

「早く手当てを・・・」

「大丈夫だって。」

「良いから!!」

たく・・・兄貴は心配性なんだからなぁ・・・
兄貴にされるがまま、俺はリビングで手当てをしてもらった。
・・・不器用なのか、俺の額には包帯がぐるぐる巻き。所々緩いのか、包帯が落ちてきたりしてる。
度が過ぎれば俺はミイラになりますが・・・

「応急処置だから、病院に行った方が良いかもしれんな。」

貴方は包帯の巻き方を勉強してください。
なんて、口が裂けても言わない。
だって、ずっげー落ち込んでるんだもん。

「ん。今からでも行って来るよ。」

そう言って立ち上がろうとしたが、血を流しすぎたのか軽い貧血を起こした。
倒れそうな俺の身体を、兄貴が支えてくれる。

「私も着いて行く。今の状態じゃ何時倒れてもおかしくないからな。」

俺は何も言わず、兄貴に支えられ病院に行った。
診断の結果は全治三週間。
・・・やっぱ大した事ねぇや。
それでも兄貴の表情は辛気臭いし・・・

「兄貴。大した事ねぇんだから良いじゃん。」

「だが・・・」

全く・・・この人は・・・

「いい加減辛気臭い顔止めろって。
命に別状ねぇんだし、それで良いじゃん。」

「・・・・・・」

だぁぁぁぁぁぁぁ!!もう!!

「いい加減にしろって!
俺は平気だって言ってるだろう?
兄貴があの戦争の事、どれだけトラウマになってるかって解かってるつもりだぜ?
俺の事敵兵と間違えて撃ち殺すなんて当たり前だろ?
今までに何回かこういう目にあってるけど、実際俺は死んでねぇんだしさ。
いいじゃねぇかよ。」

「・・・だが、私は・・・」

――ゴン!!

「っだ!!」

腹が立ったから兄貴の腰を思いっきり殴ってみた。
勿論左腕で。

「これでチャラだ。
いいな。」

ニカっと笑うと兄貴も観念したのか、少しだけ口の端を上げた。

「そうだ・・・な。」

「そうそう。これ以上気にしてたって仕方ないだろう?
んで、今日から朝飯と晩飯の支度は兄貴がやる事。
解かったか?」

「あぁ。」

兄貴が優しく微笑んでくれた。
俺はそれだけで十分だから。

「兄貴。」

「何だ?」

「こういう事が・・・俺を敵兵と間違えて射止めようとする事が、まだ先にあるかもしれない。
あの時の傷跡は消えないかもしれない。
だっで、沢山の罪の無い人を射止めて来たんだから。
だからと言って『忘れろ』なんて俺は無責任な事は言わない。
兄貴の中でずっと、残っていくものだろうから・・・
もしも、またこういう事があっても兄貴は気にするな。
俺は平気だからさ。」

無言でまた俯く兄貴。

「だが、実際は私はお前を殺そうとした・・・
過去に何度も・・・」

「だから、もういいんだよ。
俺は兄貴に救われてるんだ。何度も。
兄貴が居なかったら、今の俺は此処には居ない。」

兄貴は多分、まだ気にしてる。
俺が人体錬成をした事を。
『あの時気付いていれば・・・』って。
でも、助けて貰ってばっかりてのも嫌だ。

「私は、お前が傍に居るだけで良い。」

「ぇ?」

「お前が傍に居て笑ってくれているだけで良い。
それだけが、私の救いになる。」

・・・俺の心読まれたかι

「何時までも私の傍に居てくれるな?」

「・・・兄貴。告白に近い言葉出さないでくれるか?」

マジ顔で兄貴の目を見る。
互いに互いの目を見て、笑い出した。

「妹に告白しても面白くないだろう?」

「そうだけどさぁ・・・何かヤバイぞ?」

兄貴に言われなくたって、俺は兄貴の傍に居る。
兄貴が夢を叶えるまで、俺は兄貴のサポートしていくから。

「さぁてっと。家帰って飯にしようぜ!!」

そう言って走り出そうとしたら、兄貴に腕を引っ張られた。

「走るな。また貧血起こすぞ。」

「はいはい。」

今日は大人しく、兄貴の言葉に従っておこう。

FIN