「ただいま〜〜〜。」
何時も通り俺は勤務時間内に仕事が終って家のドアを開けた。
「あれ?兄貴?」
何時もなら『お帰りvVvV』とか言って玄関に出迎えに来るくせに、今日に限ってない。
・・・デートでも行ったのかな?
「って、靴あるし。」
って事は家に居るって事で・・・
んな事考えてても仕方ないから、取り敢えず兄貴の居そうなリビングに行ってみた。
「・・・居ない。」
リビングに兄貴の姿は見えなかった。
・・・ホント、何処に行ったんだ?
「部屋にでも居るのか?」
兄貴が居そうな場所を手当たり次第探した。
「・・・んなとこに居たよι」
兄貴が居た場所は、俺の部屋の隣・・・錬金術の本とか、資料とか詰め込んでる部屋で寝てた。
「兄貴、こんな所で寝てると風邪引くぞ。」
揺さ振り起こしても反応はなし。
・・・切り刻むか?(怒)
「・・・だ・・・」
「え・・・?」
『だ』って何だ?
取り敢えず、もう一回揺さ振る。
「兄貴、起きろって。」
何度揺さ振っても起きる気配無し。
兄貴の眉間に少しずつ皺が寄ってきてる。
「嫌・・・だ・・・」
「あに・・・き・・・?」
ヤバイ。魘されてるよ。
「兄貴、起きろっつってんだろう!!」
取り敢えず、耳元で大声を出してみた。
ビクっと兄貴の身体が震え、起き上がった。
――ガチャ!!
兄貴に銃を突きつけられ、咄嗟の判断に遅れた。
次の瞬間には、銃声が部屋に響き渡った。
「っ!!」
「・・・?」
取り敢えずは避けきれたが、俺の左こめかみには一筋の傷が出来た。
「って〜〜〜・・・・」
痛みに耐えられなかった俺は、こめかみを抑え蹲った。
「!!」
震える手から銃が落ち、俺の肩を掴んだ。
「大丈夫か?!」
「自分から発砲して、『大丈夫か?!』は無いだろう・・・」
少し呆れ笑いをしながら兄貴に言った。
「・・・すまない。」
まだ少し震えている兄貴の肩。
「心配すんなって。俺は大丈夫だから。」
俯く兄貴を俺は抱き締めた。
「イシュバールの事、夢に見たんだろう?なら仕方ねぇって。」
「・・・・・・」
昔はよくあった。
魘される兄貴を起こした俺を、敵兵と間違って発砲。
発砲の方がまだいい。焔の錬成なんてされたら確実にあの世逝き。
ま、銃の方が幾分か避け易いしな。
師匠の修行受けてれば・・・な。
「でも、久しぶりに兄貴に発砲されたなぁ・・・」
此処何年かは夢に魘される事があっても、発砲まではいかなかったからな。
「本当にすまない・・・」
「気にすんなって。んな酷くねぇし。」
酷くないて言ってても、俺の傷口からは止めど無く血が出てきている。
「早く手当てを・・・」
「大丈夫だって。」
「良いから!!」
たく・・・兄貴は心配性なんだからなぁ・・・
兄貴にされるがまま、俺はリビングで手当てをしてもらった。
・・・不器用なのか、俺の額には包帯がぐるぐる巻き。所々緩いのか、包帯が落ちてきたりしてる。
度が過ぎれば俺はミイラになりますが・・・
「応急処置だから、病院に行った方が良いかもしれんな。」
貴方は包帯の巻き方を勉強してください。
なんて、口が裂けても言わない。
だって、ずっげー落ち込んでるんだもん。
「ん。今からでも行って来るよ。」
そう言って立ち上がろうとしたが、血を流しすぎたのか軽い貧血を起こした。
倒れそうな俺の身体を、兄貴が支えてくれる。
「私も着いて行く。今の状態じゃ何時倒れてもおかしくないからな。」
俺は何も言わず、兄貴に支えられ病院に行った。
診断の結果は全治三週間。
・・・やっぱ大した事ねぇや。
それでも兄貴の表情は辛気臭いし・・・
「兄貴。大した事ねぇんだから良いじゃん。」
「だが・・・」
全く・・・この人は・・・
「いい加減辛気臭い顔止めろって。
命に別状ねぇんだし、それで良いじゃん。」
「・・・・・・」
だぁぁぁぁぁぁぁ!!もう!!
「いい加減にしろって!
俺は平気だって言ってるだろう?
兄貴があの戦争の事、どれだけトラウマになってるかって解かってるつもりだぜ?
俺の事敵兵と間違えて撃ち殺すなんて当たり前だろ?
今までに何回かこういう目にあってるけど、実際俺は死んでねぇんだしさ。
いいじゃねぇかよ。」
「・・・だが、私は・・・」
――ゴン!!
「っだ!!」
腹が立ったから兄貴の腰を思いっきり殴ってみた。
勿論左腕で。
「これでチャラだ。
いいな。」
ニカっと笑うと兄貴も観念したのか、少しだけ口の端を上げた。
「そうだ・・・な。」
「そうそう。これ以上気にしてたって仕方ないだろう?
んで、今日から朝飯と晩飯の支度は兄貴がやる事。
解かったか?」
「あぁ。」
兄貴が優しく微笑んでくれた。
俺はそれだけで十分だから。
「兄貴。」
「何だ?」
「こういう事が・・・俺を敵兵と間違えて射止めようとする事が、まだ先にあるかもしれない。
あの時の傷跡は消えないかもしれない。
だっで、沢山の罪の無い人を射止めて来たんだから。
だからと言って『忘れろ』なんて俺は無責任な事は言わない。
兄貴の中でずっと、残っていくものだろうから・・・
もしも、またこういう事があっても兄貴は気にするな。
俺は平気だからさ。」
無言でまた俯く兄貴。
「だが、実際は私はお前を殺そうとした・・・
過去に何度も・・・」
「だから、もういいんだよ。
俺は兄貴に救われてるんだ。何度も。
兄貴が居なかったら、今の俺は此処には居ない。」
兄貴は多分、まだ気にしてる。
俺が人体錬成をした事を。
『あの時気付いていれば・・・』って。
でも、助けて貰ってばっかりてのも嫌だ。
「私は、お前が傍に居るだけで良い。」
「ぇ?」
「お前が傍に居て笑ってくれているだけで良い。
それだけが、私の救いになる。」
・・・俺の心読まれたかι
「何時までも私の傍に居てくれるな?」
「・・・兄貴。告白に近い言葉出さないでくれるか?」
マジ顔で兄貴の目を見る。
互いに互いの目を見て、笑い出した。
「妹に告白しても面白くないだろう?」
「そうだけどさぁ・・・何かヤバイぞ?」
兄貴に言われなくたって、俺は兄貴の傍に居る。
兄貴が夢を叶えるまで、俺は兄貴のサポートしていくから。
「さぁてっと。家帰って飯にしようぜ!!」
そう言って走り出そうとしたら、兄貴に腕を引っ張られた。
「走るな。また貧血起こすぞ。」
「はいはい。」
今日は大人しく、兄貴の言葉に従っておこう。
FIN
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