北方司令部に向かい、一人の人が歩いていた。
「・・・寒い。何故迎えの者が来ないんだ・・・?」
寒さに身震いをしながら、雪道を歩く。
「あ、居た!!マスタング伍長!!何をサボってるんだ!!」
後ろから声がし、振り向いた。
「・・・は?」
「いいから早く来い!!今日は中央から視察に来る人が居るんだ!!」
腕を引っ張られ、北方司令部に強制的に連れて行かれた。
「・・・はぁ・・・・」
北方司令部についた途端溜め息を吐いた。
「何を溜め息なんて吐いてるんだ!!」
「・・・・・・?」
目の前から歩いてきた男性は驚いた顔をしていた。
「マスタングが・・・二人?」
と呼ばれた人は口を開いた。
「久しぶりだな。マスタング伍長。
・・・ってね。元気してたか?クソ兄貴vV」
笑顔で目の前の人、ロイ・マスタングに向って言った。
「・・・マスタング准将だったか?」
「正解。中佐のままで待ちたかったんだけど・・・やっぱりね・・・」
「ところで、その目はどうしたんだ?」
そう、の右目は眼帯で覆われていた。まるで、ロイのように。
「それと、髪。切ってしまったのか?」
「あぁ、動く時邪魔だから。
ほら、機械鎧軽くしたら身長も伸びたんだぞ。今は兄貴と同じくらい。」
そう言って、は頭の上に掌を翳した。
「・・・マスタング准将?」
「そうだけど?もしかして自分の部下と私を間違えたとでも?少佐?」
「いえ!!滅相もございません!!ささ、こちらへどうぞ!!」
「いや、今日は町の見回りをしたくてね。北方は初めて来たものだから・・・」
「そ・・・そうですか・・・」
「それと、マスタング伍長も借りていく。彼なら町の事に詳しいだろうからな。
あぁ、伍長の事は直帰にでもしといてくれ。」
そう言うと、はロイの腕を取った。
「さ、行こうか?マスタング君?」
「・・・あぁ。」
二人はそのまま司令部を出て行った。
「まさか本当に帰らせてくれるとは思わなかったよ。」
は笑いながら言った。
「職権乱用だな・・・」
髪をかきあげながらロイは呟いた。
「使える物は使わなきゃね。」
「まったく・・・変わってないな。」
そう言って、ロイはの頭を撫でた。
「兄貴も元気そうで何より。
んじゃ、町の案内でもして貰おうかな?」
ロイの手を引っ張る。
少し体制を崩しながらも、なんとかの後に付いていった。
「それと、飯はどうするんだ?」
「外で食べれば良いだろう。私のオススメの店がこの近くに・・・」
「やだ。」
ロイの言葉を遮るように、は即答した。
「久しぶりなんだから、俺の手料理食わしてやるよ。」
「だが・・・」
「何か不満でも?」
笑顔で詰め寄るの背後には、黒いオーラが渦巻いていた。
彼はこれ以上何も言えなくなった。
「では、買い物して帰ろうか・・・」
「そう来なくっちゃ!!!」
そう言うと、ロイの腕を更に引っ張った。
「ほら、兄貴!!早くしろよ!!」
「!!そんなに強く引っ張るな!!」
兄妹の大きな声が辺りに響き渡った。
「上がってくれ。」
「お邪魔します。」
1LDKの部屋に通され、は溜め息を吐いた。
「・・・汚い。ちゃんと掃除してる?
台所は・・・綺麗・・・って事は全然使ってないでしょう?
それに何?洗濯物が落ちてるし・・・
飯の前に掃除だな・・・ι」
防寒具と軍服の上を脱いだ。
「ほら、兄貴。なにボーっとしてんの?
ゴミ袋と段ボール箱持ってきて。」
「あ・・・あぁ。」
は床に落ちている一枚の服を拾った。
「これは洗濯。これはゴミ・・・」
手に持った服を段ボール箱に投げ入れた。
数時間後には床が磨かれ、元の姿に戻った。
「やっと終った・・・」
ロイは溜め息を吐きながらソファーに座り込んだ。
「何言ってんの?兄貴はゴミ処理しただけでしょう?
まったく・・・」
は台所へ行き、手を洗った。
「さてと・・・ちゃっちゃと作りますか。」
「私も手伝おう。」
「兄貴は休んでなって。
つーか、兄貴に手伝わせたら料理どころじゃなくなるだろうし・・・」
そんな言葉にショックを受けたのか、ロイは膝を抱えて蹲った。
「・・・・・・・・・兄貴、風呂入ってきなよ。」
どう反応していいか悩んだ後、は風呂に入るようにすすめた。
「入ってるうちに出来ると思うからさ。
ほら、ちゃっちゃと動く!!」
に背中を押され、ロイは仕方なく風呂に入る事となった。
数十分後、頭を拭きながらロイは出てきた。
「お、ピッタリ。飯出来てるぞ〜〜〜。」
リビングに備え付けられてるテーブルに料理を運び終え、は椅子に腰掛けた。
「いただきます。」
の作ったグラタンを一口、口に運ぶ。
「どう?上手いか?」
「一段と料理の腕を上げたな。」
さっさと食事を平らげてしまった。
「兄貴・・・ちゃんと食ってるのか?」
「あぁ。勿論だ。」
「にしては言い食いっぷりだったな・・・」
は食器を片しながら呟いた。
「ところで。その目はどうしたのだ?」
こっちに来てから目の事に関しては一言も口を開かなかった。
「ん・・・今から話すよ・・・」
洗い物を一段落させ、紅茶とコーヒーを持ちながら再びリビングのソファーに腰を掛けた。
「兄貴が北方に行ってから、紂王の治安も少し悪くなってね。
不穏分子との戦いがあったんだ。ま、こっちとしては楽勝だったんだけど。
でも、一人の部下が梃子摺っちゃって。それで、庇ったらこうなった。」
は右目を覆っていた眼帯を少し持ち上げた。
その先に見えたのは、頬まで伸びる刀傷。
「命が合っただけマシだってな。」
「・・・鋼のが見たら怒りそうだな。」
ロイはハッとして口を押さえた。
エドの名前を出した途端、の顔が暗くなった。
「・・・」
「別に・・・もう気にしてないよ・・・」
淋しい笑みを浮べながらは言った。
「兄貴だって俺と同じ気持味わってるんだから・・・」
ロイは過去に戦場で一人の恋人を失った。
「あの時の兄貴は見てられなかった。」
の部屋に入り、人体錬成の資料を見漁るロイの後ろ姿は今でも鮮明に思い出せる。
「でも、どうにか兄貴は乗り越えてくれた。」
「・・・お前とマースが居たからな。
それに、信頼できる部下もな。」
人体錬成をしても何にもならない。
そう教えてくれたのはとヒューズ。
「お前も・・・乗り越えられるといいな。」
「・・・うん。」
頷きながらは紅茶を啜った。
「兄貴・・・明日早いんだろ?
もうそろそろ身体休めた方がいいんじゃないか?」
「そうだな・・・そうするか。
・・・お前は何処で寝るつもりだ?」
ベッドが一つしかない家。
あるのはソファーのみ。
「勿論、此処で・・・」
「ベットを使え。」
即答するの言葉を遮る。
「え〜〜。」
「『え〜〜』じゃない。身体痛めるぞ?」
何度かソファーで寝た事のあるロイ。
次の日の肩の痛みは半端じゃない。
「平気だって。
兄貴だって身体痛める訳には行かないだろう?」
「私は平気だ。」
「・・・なら、一緒に寝るか?」
「却下。」
の申し出を即答で却下する。
「え〜〜。別に良いじゃん。
何回も一緒に寝てるんだし。」
「・・・お前・・・少しは歳と性別を考えろ。」
「妹兄なんだし。別に良いじゃん。」
「・・・・・・分かった。」
「んじゃ、寝るかぁ。」
立ち上がり、は寝室に向った。
「お前・・・何時まで此処に居るんだ?」
「ん〜〜〜・・・2週間。」
「・・・明日から宿でも取れ。」
「嫌に決まってるじゃん。
折角兄貴と一緒に居られるんだからさ。」
満面の笑みで言われ、何も言い返せないロイ。
「・・・明日の朝にでも布団を干すか・・・」
「何?寝具あんの?」
「一応は・・・な。」
と言っても敷布団と毛布のみ。
「今日は狭いベットで寝るか・・・」
「明日は明日で考えれば良いってね。
んじゃ、おやすみ〜〜〜。」
軍服を脱ぎ捨て、ベットの中に潜り込む。
早々に寝息を立てる。
「・・・寝るのが早いな・・・」
駅から歩いて来た為か、疲れが溜まっている。
「寝顔はまだまだ子供だな。」
そう言ってロイは眠るを撫でた。
「さ・・・明日からはこいつに怒鳴られる毎日が続くな。」
言葉とは裏腹に微笑むロイ。
一緒に仕事をすることが嬉しいようだった。
「あまり無茶はするなよ。。」
そう言い残し、ロイは毛布を手に取りリビングのソファーで眠った。
次の日・・・
「身体中が痛い・・・」
「当たり前だろ?
ソファーで寝るからそうなるんだよ。」
何だかんだ良いながらもロイのマッサージをする。
「この光景・・・他の者が見たらどう言うか・・・」
北方司令部内。上司が部下のマッサージをする姿は異様な光景だった。
「はははは。しかも何気に俺等似てるしな。」
「双子に間違われそうだ。」
実際問題、北方司令部内にマスタング双子と言う噂が立ったのは言うまでも無い。
FIN
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