あの時の私はどうかしていたんだ・・・


風と焔の物語。



「ロイ兄!!」


久しぶりの非番で、家族四人で出かけた時の事だった。


「早く行こうよ〜〜〜。」


「解かった。少し待ってなさい。」


そう言って引っ付いてくるの頭を撫でて、私は自室に向った。




机に置かれた発火布。私はそれをポケットの中へ入れた。


「ロイ兄〜〜!まだ〜〜?」


一階から絶え間なく聞こえるの催促の声。
苦笑を漏らしながら私は一階へ降りて行った。




「もう〜〜〜、早く行こうよ〜〜〜。」


「解かった解かった。」


家族四人で出掛ける事が凄く嬉しいのか、は笑って居た。


「さ、行きましょうか?」


「うん!!」


母さんの声に元気良く返事を返す
こうして私達は家を後にした。
この後に起きる悲劇など想像もしていなかった。




買い物を楽しむ為に来た中央広場。
休日と言う事もあってか人通りが何時もより多かった。


「仕事の方は順調か?ロイ。」


歩きながら父さんは私に話し掛けてきた。


「まぁ・・・このところ戦争だ、テロだって休みもロクに取れないけど・・・」


「確かに、治安は悪いが・・・
でも、仕事は忙しいうちが花だぞ?」


そう言って微笑んでくれた父さん。それが凄く嬉しかった。


「お父さん〜〜!!ロイ兄〜〜!!早く早く!!」


大分離れてしまったのか、少し前の方から手を振る


「父さん、早く行こう?」


「あぁ。」


そう言って、私たちは母さんとの待つところまで走って行った。


「あ。」


は何かを見つけたのか、本屋の方へ走って行った。


「全く・・・連れてくる。」


そう言って私は両親の元から離れ、を追った。


、何を見つけたんだ?」


「錬金術の本!ん〜〜〜・・・でもこれ難しくてわかんないや・・・」


頭を抱えながらは本を読み出した。


「これがこうなる訳だから・・・ん〜〜〜?」


「買ってやろうか?」


一生懸命に理解し様としているを見て、私は言った。


「ホント?」


「あぁ。この頃一緒に研究する事も少なくなったしな・・・
も頑張ってるみたいだし、ご褒美だな。」


「わーいvV」


満面の笑みで喜ぶ。そんなの姿が見れて嬉しかった。
本屋の中に入って、本を購入に店の外に出た時、辺り一面に悲鳴と銃声が響き渡った。


「な・・・っ!!」


「お父さん・・・お母さん・・・」


今まで両親がたっていた所は血の海と化していた。
そしてその近くには銃を持った男。


「お父さん!!お母さん!!」


は両親の元に走り出した。


「待て!!!!」


私の言葉を聞かずに、は走って行った。
を見つけた男は、に銃の標準を合わせる。
庇おうとしても、間に合わない。
私はポケットの中に入れていた発火布を装着し、焔の錬成をした。


「・・・っ!!」


目の前で爆発が起き、はビックリしたのか地面に座り込んだ。
そして、後ろに居る私を見た。


・・・大丈夫か?」


そう言って私はを目線を合わせる為にしゃがみ込んだ。
俯いてまま黙っている。足元を見ると、涙の雫が落ちていた。


・・・」


泣いているをあやそうと、私はを撫でようとした。


――パシッ!!


私の伸ばした右手はに叩かれた。


・・・?」


顔を上げたの目は、私を睨みつけていた。


「錬金・・・術は・・・人を殺す・・・道具じゃない・・・って・・・ロイ兄・・・言ってたよね・・・」


「それは・・・お前を助ける為に・・・」


「それでも・・・錬金術で・・・」


銃を抜こうと思えば抜けた筈なのに、私は何故錬金術を使ってしまったのだろう・・・


・・・」


「・・・っ!!」


再び手を差し伸べようとした時、は走り出した。


!!!」


私の言葉を聞かずに、は去ってしまった。




その後、事後処理に終われ、帰ってきたのは日付の変わる頃だった。


・・・」


リビングのソファーで寝息を立てているにそっと触れようとした。


「お父さん・・・お母さん・・・」


そこで私の手は止まった。
私はに毛布を掛けると、自室へ行った。
軍の狗だ人間兵器だと言われても、所詮は人。
私はに悲しい思いをさせてしまった・・・




両親の通夜や葬式でも、は一切私と目を合わせようとはしなかった。
終った後も、はずっと部屋に篭っていた。
数ヵ月後、はある錬金術師の弟子になるとこの家を出て行った。
私と会話をせずに・・・
半年後、一回りも二回りも成長していた。それでも私と会話しようとせず、避ける日々が続いた。




そんな日々も長く続いたある日。


「・・・、ただいま。」


返答は元から期待してなかった。
だが、今日は何か様子がおかしい。
玄関に入ってもの靴が見当たらず、私はの部屋へと足を進めた。


!!」


部屋には誰も居なかった。こんな時間に出歩く事はまずなかった。
の部屋に入り、机の上で見つけた物に私は絶句した。


「人体・・・錬成・・・?」


沢山の資料と町の地図。
地図の中に一つ、赤い丸がついていた。


「この場所は・・・」


まだ幼い時にと見つけた秘密の場所。
町外れで人気が全くといって良いほど無い。


「まさか・・・!!」


私は急いで家を出た。
を止める為に、只ひたすら走った。




丸が付いていた付近についた時、錬成反応の青白い光が見えた。


!!!」


入り口を蹴破るように入ると、そこには血塗れで横たわるが居た。


!!」


は左肩を抑えていた。


「ロイ・・・兄・・・?」


「何でこんな事をしたんだ!!」


の左腕と右足は無くなっていた。
の傍には人ではないモノがあった。


「今すぐ病院に連れて行ってやる・・・それまで死ぬんじゃないぞ!!」


来ていたコートを脱ぎ、に巻きつける。
そのままを抱え、知人の病院へ駆け込んだ。




昔よりかは私と話すようになった
だが、何時も無表情で感情のない人形みたいだった。


「ヒューズ・・・」


そんな私達を心配して中央から来てくれたヒューズ。


「・・・をこのままにしておく気か?」


ヒューズの言葉に私は首を横に振った。


「・・・言ってたぞ。
『親が死んだ時、言った言葉に対して自分の事嫌いになったんじゃないか。』って。
『本当はあの時、『ありがとう』って言いたかった。』って。」


今まで私はに嫌われていたと思っていた。
ヒューズの言葉に熱いものが込み上げた。


「・・・このままにして置きたくないんなら、それなりの対処法を考えろ。」


「だが・・・どうすれば良いのか・・・」


「・・・・・・に国家資格取らせる事は考えているか?」


「!!」


ヒューズの言葉に私は驚いた。


「何か目的が決まれば、彼奴だって変わる。そうだろう?」


「だが・・・」


軍の狗になれば、何時かは戦争に駆り出される。
それが不安なんだ・・・


「不安なのは解かる。だが、それを決めるのは自身だ。」


ヒューズはそう言い残すと、立ち上がった。


「彼奴が決心したら連絡してくれ。何か力になる。」


「あぁ・・・」


ヒューズのへ中を見送り、私はの居る病室へ入っていった。




・・・入るぞ・・・」


私が入ってきても目線は窓の外。
近くの備え付けの椅子に腰を掛けた。


・・・国家錬金術師の資格を取らないか?」


私の言葉に、今まで窓の外を見ていたがこっちを向いた。


「国家・・・錬金術師・・・?」


「今のお前の実力ならなれる。どうする?」


は下を向いて考え込んだ。


「・・・お兄ちゃん・・・」


「何だ?」


暫くの沈黙の後、は口を開いた。


「国家資格を取って、軍に入ればお兄ちゃんの補佐できるかな・・・?」


「不可能では無い。」


「なら・・・私・・・国家資格取る・・・お兄ちゃんの役に立ちたい・・・」


は私を見つめた。
見つめた彼女の瞳はさっきまでとは違う眼をしていた。


「だから、お兄ちゃん。自由に動ける様に機械鎧を付けて。」


「後悔はしないか?」


力強く頷く。その姿に私はホッとした。


「解かった。腕の良い技師を探しておこう。それまではゆっくりしているんだ。」


「うん。」


は満面の笑みで答えた。


「それと、お兄ちゃん・・・」


「何だ?」


「・・・昔も・・・今回も・・・助けてくれて・・・ありがとう・・・
お兄ちゃんから買ってもらった本・・・今でも大切に持ってるんだよ・・・」


その言葉を聞いて、私はを抱き締めた。


「すまなかった・・・・・・
もっと早く気付いていれば・・・こんな事にはならなかったのに・・・」


「お兄ちゃん・・・私は大丈夫だから。
じゃ無かったら国家資格取りたいなんて言わないよ?」


「そうだな・・・」


抱き締めていた腕を少し緩め、の顔を覗いた。


「ゆっくり休んで、早く良くならなくてわな。」


そう言っての頭を撫でた。


「うん。
本当にありがとね。お兄ちゃん。」


「いや。」


久しぶりに見るの笑顔はどこか大人びて見えた。




それから数ヵ月後、機械鎧の手術、リハビリが始まった。
それと同時に、私たちが一緒に居る時間が増え、錬金術の研究にも没頭した。




機械鎧にも慣れたある日、リビングで紙にペンを走らせながらは唸っていた。


「ん〜〜〜・・・?」


「どうしたのだ??」


「いや・・・風を起こす原理は解かってるんだけど・・・どうも錬成出来なくて・・・」


「昔やっていた水でも良いんじゃないか?」


の右手の中指には今も錬成陣入りの指輪が嵌っている。


「それでもいいんだけど・・・水は焔を消しちゃうからさ・・・
風の方が酸素を送って威力増すだろう?」


「それは・・・私の為に・・・か?」


「まぁ、半分は。
水だと攻撃力も落ちるし・・・風の方が良いんだけど・・・」


そうしてまた、紙にペンを走らせる。


「・・・これはこうじゃないのか?」


横から顔を出し、の書いていた紙に文字を書き入れた。


「あ、そっか。さすがロイ兄。」


そう言ってまたペンを走らせる。


「ここがこうなって・・・だから酸素も増えて・・・」


暫く紙と睨めっこする


「出来た!!」


数分後、は声を挙げた。


「よっしゃ、早速・・・」


「待て待て、家の中でやるつもりなのか?」


「大丈夫だって。微風程度だからさ♪」


本当に大丈夫なのだろうか・・・?
不安になって来たぞ・・・


「いっきまーす♪」


両手を合わせ、クルクルと二、三回右手を回す。
そうすると、の髪が靡き始め、風が起こった。


「よっしゃ!!成功!!」


ガッツポーズをとる
周りに風が起きたまま・・・


「今度はこれをどう扱うだなぁ・・・」


右手を見ながら呟く
・・・恐くなってきたから逃げるか・・・


「ロイ兄♪」


逃げようとした私を呼び止める


「何だ・・・・・・?」


嫌な予感・・・


「実験台になれvV」


そう言っては右手を私の方に向けた。


「って・・・私を実験台にするな〜〜〜〜!!!!!」


「逃げんなってvV」


リビングに私の悲鳴との楽しげな声が響き渡った。
この先・・・私は何回に殺されかける事やら・・・
先が思いやられる・・・(汗




FIN