エドは列車の中で一枚の紙切れを眺めていた。
『召集命令。』
そう書かれた紙が嫌で、トランクの中に入れた。




もうすぐ、隣国との戦争が始まる・・・


嘘だと言って・・・


一応上司である、ロイの所に向かう為、東方司令部に足を踏み入れた。


「あ、エド。」


・・・」


エドの彼女、を見て少しばかり心が和んだのか彼は微笑した。


「エドにも召集命令出たんだ。」


「もって・・・もしかしても・・・?」


何も言わずにはコクンと首を立てに振った。


「私は仕様がないよ。軍人だから・・・」


彼女の階級は大佐。そして国家錬金術師。二つ名は水火(すいか)。
文字通り、水と炎を扱う錬金術師。


「そっか・・・」


和んだのも束の間、エドは俯いてしまった。


「あ、ロイ・・・」


目の前から現れたのは上司であるロイ。


「水火の・・・鋼の・・・」


二人を見たロイの顔も少し悲しげだった。


「・・・今回の戦いの話をする・・・付いて来い。」


そう言って歩き出すロイの後ろを二人は付いていった。




「今回は割と小規模な戦いになるだろう。犠牲者もそれ程出ないと思う。
鋼のと水火のは二人で組んで貰う事となった。」


話し終わると、資料を二人に手渡した。


「鋼のは受付で軍服を貰う事。」


「分かった。」


ロイの言葉に頷くエド。


「それと・・・たとえ小規模は戦いといっても気を抜くな。そして、絶対に死ぬな。以上だ。」


ロイの話が終わり、二人は執務室を後にした。


「軍服・・・取りに行かなきゃね・・・」


「そうだな・・・」


二人は落ち込んだ表情をしたまま受付へ向った。




軍服を受け取り、エドとは彼女の家へと向った。


「そう言えば・・・アルは?」


「リゼンブールに置いて来た。」


「置いて来たって・・・(汗)」


戦争が始まる前の暫しの休息。


「・・・本当はエドが戦争に出なくても良いようにしたかったんだけどね・・・」


「別に・・・仕様がないだろう?」


「だけど・・・」


俯き、泣きそうな彼女をエドはそっと抱き締めた。


「んな顔すんなって。大佐も言ってただろう?犠牲者は出ないって。」


「でも、絶対とは言い切れない・・・」


「大丈夫だって。互いに守りあえば・・・な。」


そう言って笑顔を見せるエド。


「うん・・・絶対に死なないでね・・・」


「お前も・・・絶対に死ぬなよ・・・」




戦争なんて起きなければいい。そう思っていても刻一刻と時間が迫る。



戦場へ赴く当日、最終確認をし二人は持ち場へと付いた。


二人の持ち場は廃墟となった建物の中。この中に不穏分子が居る。


「こっちの方にはあまり来ないって言ってたね。」


「俺が戦争に出るのが始めてだからだろう?
何が起こるか分かんねぇし・・・気ぃ抜けねぇな・・・」


「うん・・・」


頷くとは銃弾の確認をした。
一歩、また一歩と建物の中へと足を進めて行く。
中に進むに連れ、二人の口数も段々と少なくなっていた。


「・・・誰か居る・・・」


誰かの気配を感じ取ったのか、は口を開いた。


「エド!伏せて!!!」


の声と同時に、銃弾が飛んできた。
何とか避けたエド。


「怪我してない?」


「あぁ。大丈夫だ。」


こうして会話をしている間にも銃弾が飛び交う。


「・・・どうする?」


「やんなきゃやられる。」


腰に掛けていた銃を取り出し、安全装置を外した。


「だろうな・・・」


エドの声を合図に、は敵に向って銃弾を放った。
数分の間、銃弾の音が聞こえなくなった。


「此処は終了。」


「・・・・・・・」


戦争という物を始めて経験したエドは何も言えず佇んでいた。


「エド・・・?大丈夫?」


「あ・・・あぁ。」


取り敢えずは返事を返したが、目の前の光景に嘔吐を感じた。
がエドの方を向いた時、彼の後ろに忍び寄る影に気付いた。


「エド!!危ない!!」


は衝動的にエドを引き寄せた。
反動で転んでしまったエドは、今まで自分が立っていた場所へ目線を向けた。


・・・・?」


まるでスローモーションでも見ているかの如く、の身体が倒れていく。


ーーーー!!」


倒れたを抱き上げ、エドは必死で身体を揺さぶった。


「おい!!!!しっかりしろ!!」


そうしている間にも、敵は一歩、また一歩と近付いてくる。


「お前も・・・軍属・・・その女と共に殺す。」


そう言って手に持っていた剣を振り下ろした。
エドはの持っていた銃を手に取り、全弾発砲した。
血みどろになって倒れる敵。それを見て終るとエドは再びを強く抱き締めた。


・・・・・・」


うわ言のように彼女の名前を呼ぶ。
エドは何かの気配を感じ取ったのか、銃弾の補充をし気配のする方に標準を合わせた。


「鋼の!!」


出てきたのはロイだった。だが、エドは銃を発砲した。


「鋼の!!私だ!!」


物陰に隠れながら叫ぶロイ。それでも発砲し続けるエド。


「まったく・・・敵味方の区別もつかんのか・・・・」


呆れたように溜め息を吐くと、一瞬の隙を突いてエドの持っている銃を掴んだ。


「鋼の!!私だ!!分かるか?!」


「大・・・・佐・・・・」


ロイだと分かるとエドは持っていた銃を離した。


「一体どうしたのだ?!君がそこまで取り乱すとは・・・」


ロイは手を離し、視線を下に向けた。


「水火・・・の・・・?」


青い軍服が真っ赤に染まった彼女を見て、ロイは言葉を失った。


「守れ・・・なかった・・・逆に・・・俺・・・守られ・・・た・・・」


を強く抱き締める、涙を流すエド。


「エ・・・ド・・・」


抱き締めていたが意識を取り戻し、口を開いた。


・・・」


「泣か・・・ないで・・・」


「水火の!これ以上は喋るな!!」


「ロイ・・・」


ロイの方を向き、は微笑んだ。


「ごめんね・・・約束・・・守れなかった・・・」


「水火の・・・」


「エド・・・」


再びエドの方を向き、彼の頬に手を当てた。


「          」


言い終わると、彼女の手は重力に従い、床に落ちた。


・・・嘘・・・だろ・・・?・・・ーーーー!!」


エドは泣きじゃくりを強く抱き締める。ロイも、声を殺して泣いていた。




『貴方に出会えてよかった・・・』




FIN