――コンコン
「三蔵?いい加減起きてくれない?」
部屋の中に入ったが、三蔵からの返答は無い。
「・・・?三蔵?」
不審に思い、は部屋を見渡した。三蔵の気配が無い。変わりに違う者の気配がした。
(誰だろう・・・?)
兎に角、彼女はベットサイドに向うために1歩踏み出した。
――ムギュ
「ムギュ?」
踏み出した足に感じる、やわらかい感触。彼女は恐る恐る下を向いた。そこには金髪の少年が倒れていた。
「・・・・ガキ?」
少年を良く観察すると、身体に合わない大き目の法衣を着ていた。が少年を抱き上げ、顔を見ると見知った顔がそこにはあった。
「・・・・・江流・・・・?」
がその名を呼ぶと、少年が目を覚ました。
「お前・・・・」
少年の深い紫の瞳に見とれる。
「誰だ?」
少年のマジ顔の質問には肩を落とした。
「江流・・・・?」
「そうだけど?」
やっぱり少年は三蔵だった。何故、少年の姿になってしまったのか。原因はこの人。
「いい絵じゃねぇか。」
「観世音菩薩・・・また遊んで・・・」
そう、原因は観世音菩薩だった。
「兎に角・・・八戒達を呼ばなきゃ・・・」
半分額に汗をかきながらは部屋を後にしようとした。
――グイ!
急に後ろから引っ張られる感じがし、は振り返った。江流がの洋服の裾を握っていた。
「江流・・・」
「お前、何で俺の名前知ってるんだ?」
江流の質問にどう返そうか悩む。
「えっと・・・江流は『』って知ってる?」
「知ってる。お師匠様が拾ってきた女だから。」
「私は。光明様が拾ってきた女だよ。」
「は?」
訳がわからないと言うような顔をする江流。
「取り合えず、一緒に居る人たち呼んでくるから、待っててくれない?」
「・・・・服。」
「へ?」
そう言うと江流は自分の着ている法衣を掴んだ。
「動き難い・・・」
「あぁ、そう言う事か・・・ちょっと待ってて。」
は一旦自分の部屋に足を運び、自分の荷物を持って、江流のところに向った。
「はい、これなら着れるでしょう?」
そう言って差し出したのは、七部丈のジーパンとTシャツ。
「・・・ありがとう・・・」
そう言うと、渋々着替える江流。そんな彼を見て微笑む。
「着替えた。」
七部丈だったジーパンは丁度いいサイズになっていた。
「ウエストがゆるい・・・」
確かに、お腹周りがダボダボで、今にもおちそうになっていた。
「後で買い物に行くからそれまで我慢してて。」
そう言うと、ポケットからベルトを取り出し、江流の渡した。
「んじゃ、行きますか。」
江流がベルトをしたのを確認すると、彼と一緒に八戒達がいる食堂に向った。
「これが・・・三蔵?」
「ちっちぇ!!」
「寧ろ可愛い。」
上から八戒、悟空、悟浄の順で言葉が発せられた。江流の眉間に皺が寄った。
「ちっちゃいだの可愛いだの・・・煩い。」
「性格はまんまですね。」
苦笑しながらも八戒は言った。
「まぁ、何時戻るか解からないし・・・取り合えず、江流の服の調達に行って来る。」
「え、カードはどうすんだ?」
「もちろん。観世名義のカードがあるから心配ない。」
そう言いながらポケットに入っている観世名義のゴールドカードを見せる。
「じゃ、行こうか。江流。」
「あぁ。」
そして街に繰り出した。一時間後。三蔵の部屋へ行き、江流を着替えさせる。
が江流と買った服は、上は黒のYシャツ、下は白のジーパンだった。
「ん。完了。どう?動きやすいか?」
「まぁまぁだな。」
「素直じゃないね・・・全く・・・」
は苦笑しながら江流の頭を撫でた。
「っと・・・これ、ちゃんと持っておきなよ?」
鞄から三蔵が何時も愛用している銃を取り出し、手渡した。
「もしもの時には自分で自分の身を守るんだ。」
「わかった・・・」
そう言った江流の目は何処となく困惑していた。
「ま、大体は私と一緒に居れば安全だから。」
微笑んだの顔を見て、江流の頬が少しだけ赤くなった。彼女はそんな江流の姿に気付かず、頭を撫でた。
「散歩しようか?昨日いい所見つけたんだ。」
「良い所?」
「そ。行こう。江流。」
そう言いながら彼女は手を差し出した。照れながらも江流は手を取った。
の言っていた場所は辺り一面桜の木があり、薄紅色に染まっていた。
「綺麗・・・」
思わず口にするほど絶景の場所だ。
「でしょ。」
一本の大木に背を掛けた。江流も彼女の隣に腰を降ろした。
「江流は此処。」
そう言いながら江流を抱き上げ、自分の膝の上に座らせた。
「な・・・///」
照れる江流を余所に、は彼を抱き締めた。
「江流って抱き心地良いね・・・」
「そ・・・そうか・・・?///」
心地良い春の日差しと風に吹かれながら、二人は過ごした。
「江流・・・?」
ふと腕の中を見てみると、江流は既に寝息を立てていた。
「寝ちゃったのか・・・」
少し寂しそうな表情し、彼女は腕の力を少しだけ強めた。
「三蔵・・・好きだよ・・・」
彼女の言葉は春の風で消されてしまった。
次の日には、三蔵の姿も元に戻っていた。
「三蔵、本当に昨日の記憶無いのかよ!!」
「あぁ。全然無い。」
ジープの上で宿を出たときから繰り返される問いに呆れ気味に三蔵は答えていた。
「。」
「何?」
三蔵に呼ばれ、サイドシートの近くに顔を近づけた。
「 」
耳元で、にだけ聞こえる声で三蔵は囁いた。
「昨日の記憶あるじゃん!!馬鹿!!///」
顔を真っ赤にしながら、三蔵を睨んだ。
「さぁな。」
「意地悪坊主・・・///」
(たまには悪くねぇな。)
そう思いながら三蔵は新しい煙草に火を付けた。
『また、桜を見に行こうな。。』
FIN
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