「マスタング大佐、さんをお連れしました。」
「入ってくれ。」
部屋の中からはロイの声。は案内してくれた女性にお辞儀をし、執務室に入っていった。
目の前の大きな机に座るロイ。その前の椅子に腰を掛けていたのは、数日前セントラルの公園で出会った金髪の少年。
「お前・・・・」
振り向いた少年は驚いた顔をしていた。
「君達、知り合いだったのか?」
「この間の国家試験の後、偶然・・・・」
言葉を濁らせながらは言った。
「まぁ、何時までもそんな所に突っ立てないでこっちに来なさい。」
「はい・・・」
ロイに言われ、少年の事は気になったがおとなしく座る事にした。
「で、これが国家資格の証である銀時計。」
ロイは手元にあった二つの銀時計をそれぞれに渡した。
「拝命書と細かい規約はこれだ。読み上げるのは面倒だから内容は各自で確認してくれ。」
「仕事しろよ。給料泥棒。」
「リザさんに怒られるよ。」
「・・・・ι」
二人の言葉に耳を貸さず、ロイは大き目の茶封筒の中身を見た。
「と・・・・大総統も随分皮肉な銘をくれたものだな。」
その言葉はに言っているのか、隣りに座る少年に向けた言葉なのか解からなかった。
「何?」
「いや、おめでとう。これで晴れて軍の狗だ。」
ロイは二人に茶封筒を渡した。
「へぇ・・・これが拝命書か・・・えらそーな資格の割にゃペラい紙切れ一枚なんだな。」
少年が拝命書を取り出した。もまた同じように封筒を開けた。
「『大総統、キング・ブラッドレイの名において汝エドワードエルリックに銘"鋼"を授ける・・・』鋼?」
「私は・・・『風』」
「そう・・・国家錬金術師に与えられる二つ名・・・が背負う名は"風の錬金術師"・・・そして君が背負うその名は"鋼の錬金術師"」
「いいね。その重っ苦しい感じ。背負ってやろうじゃねーの!」
少年は手に持っていた資料を床にばら撒くように投げ捨てた。
「は・・・この東方司令部で明日から少佐として働いてもらう。依存は無いな。」
「はい、マスタング大佐。」
はその場に立ち、ロイに敬礼をした。
「話は以上だ。帰ってもいいぞ。」
少年とは東方司令部から出て行った。
「ねぇ、エドとか言ったよね?いくつなの?」
イーストシティを歩きながらはエドに話し掛けた。
「今年で12。あんたは?」
「私は15歳。何だ年近いんだ。」
「そうだな。」
エドの素っ気無い返事には少し俯いてしまった。
「どうした?」
彼の心配する声には笑顔を向けた。
「何でもないよ。」
だが、その笑顔は無理に笑っているのがわかった。
「お前・・・前もそんな顔してたな。」
「え?」
の笑顔が驚きに変わった。
「セントラルの公園で会った時も、そんな顔だった。」
(何故だろう・・・?こいつの哀しげな笑顔が俺の胸を締め付ける・・・)
「エドも解かるんだ・・・・」
「え?」
消えそうな声で呟かれた言葉は、エドの耳にはちゃんと入ってこなかった。
「あ、気にしないで。」
また、哀しげな笑顔。
「なぁ、。」
「ん?何?」
「お前、何時もそんな顔してるのか?」
エドの質問には黙り込んでしまった。
「エドは・・・何で国家錬金術師になりたかったの?」
返って来る筈の答えが、逆に質問に変えられた。
「別に・・・何となく・・・」
「嘘でしょう?」
エドの曖昧な言葉に、は即答で『嘘』と決めつけた。
「何となくで試験を受ける人なんて居ないよ。」
「じゃぁ、お前はどうなんだ?」
「私は・・・」
彼女は一旦言葉を切り、空を見上げた。
「あの人の役に立ちたいから・・・・」
「あの人?」
「そう・・・・マスタング大佐。私はあの人の夢を実現させたい。只それだけ・・・」
太陽に照らされていたの横顔が、哀しげな表情をしていた。
「本当にそれだけなのか?」
「貴方だって詳しくは話してくれないから、お相子でしょう?」
クスクスと左手を口に当て笑う彼女。エドは何か違和感を覚えた。
「お前、その左腕はどうしたんだ?」
服の袖から見えた機械鎧。こんな華奢な身体には似付かない物。
「あぁ・・・これ?昔ちょっとね・・・・」
続きがあるであろう言葉は途中で切られた。
「悪ぃ・・・」
「別にいいよ・・・エド、この後暇?」
「え・・・まぁ、別に急ぎの用事も無いし・・・」
「ならちょっと話さない?私のお気に入りの場所で。」
はそう言うとエドの手を取り、歩き出した。彼の顔は少しだけ赤くなっていた。
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