数日後、ロイに呼び出された。司令部の受付で女性に声を掛け、ロイの居る執務室まで案内された。


序章三『風と鋼』


「マスタング大佐、さんをお連れしました。」


「入ってくれ。」


部屋の中からはロイの声。は案内してくれた女性にお辞儀をし、執務室に入っていった。
目の前の大きな机に座るロイ。その前の椅子に腰を掛けていたのは、数日前セントラルの公園で出会った金髪の少年。


「お前・・・・」


振り向いた少年は驚いた顔をしていた。


「君達、知り合いだったのか?」


「この間の国家試験の後、偶然・・・・」


言葉を濁らせながらは言った。


「まぁ、何時までもそんな所に突っ立てないでこっちに来なさい。」


「はい・・・」


ロイに言われ、少年の事は気になったがおとなしく座る事にした。


「で、これが国家資格の証である銀時計。」


ロイは手元にあった二つの銀時計をそれぞれに渡した。


「拝命書と細かい規約はこれだ。読み上げるのは面倒だから内容は各自で確認してくれ。」


「仕事しろよ。給料泥棒。」


「リザさんに怒られるよ。」


「・・・・ι」


二人の言葉に耳を貸さず、ロイは大き目の茶封筒の中身を見た。


「と・・・・大総統も随分皮肉な銘をくれたものだな。」


その言葉はに言っているのか、隣りに座る少年に向けた言葉なのか解からなかった。


「何?」


「いや、おめでとう。これで晴れて軍の狗だ。」


ロイは二人に茶封筒を渡した。


「へぇ・・・これが拝命書か・・・えらそーな資格の割にゃペラい紙切れ一枚なんだな。」


少年が拝命書を取り出した。もまた同じように封筒を開けた。


「『大総統、キング・ブラッドレイの名において汝エドワードエルリックに銘"鋼"を授ける・・・』鋼?」


「私は・・・『風』」


「そう・・・国家錬金術師に与えられる二つ名・・・が背負う名は"風の錬金術師"・・・そして君が背負うその名は"鋼の錬金術師"」


「いいね。その重っ苦しい感じ。背負ってやろうじゃねーの!」


少年は手に持っていた資料を床にばら撒くように投げ捨てた。


は・・・この東方司令部で明日から少佐として働いてもらう。依存は無いな。」


「はい、マスタング大佐。」


はその場に立ち、ロイに敬礼をした。


「話は以上だ。帰ってもいいぞ。」


少年とは東方司令部から出て行った。


「ねぇ、エドとか言ったよね?いくつなの?」


イーストシティを歩きながらはエドに話し掛けた。


「今年で12。あんたは?」


「私は15歳。何だ年近いんだ。」


「そうだな。」


エドの素っ気無い返事には少し俯いてしまった。


「どうした?」


彼の心配する声には笑顔を向けた。


「何でもないよ。」


だが、その笑顔は無理に笑っているのがわかった。


「お前・・・前もそんな顔してたな。」


「え?」


の笑顔が驚きに変わった。


「セントラルの公園で会った時も、そんな顔だった。」


(何故だろう・・・?こいつの哀しげな笑顔が俺の胸を締め付ける・・・)


「エドも解かるんだ・・・・」


「え?」


消えそうな声で呟かれた言葉は、エドの耳にはちゃんと入ってこなかった。


「あ、気にしないで。」


また、哀しげな笑顔。


「なぁ、。」


「ん?何?」


「お前、何時もそんな顔してるのか?」


エドの質問には黙り込んでしまった。


「エドは・・・何で国家錬金術師になりたかったの?」


返って来る筈の答えが、逆に質問に変えられた。


「別に・・・何となく・・・」


「嘘でしょう?」


エドの曖昧な言葉に、は即答で『嘘』と決めつけた。


「何となくで試験を受ける人なんて居ないよ。」


「じゃぁ、お前はどうなんだ?」


「私は・・・」


彼女は一旦言葉を切り、空を見上げた。


「あの人の役に立ちたいから・・・・」


「あの人?」


「そう・・・・マスタング大佐。私はあの人の夢を実現させたい。只それだけ・・・」


太陽に照らされていたの横顔が、哀しげな表情をしていた。


「本当にそれだけなのか?」


「貴方だって詳しくは話してくれないから、お相子でしょう?」


クスクスと左手を口に当て笑う彼女。エドは何か違和感を覚えた。


「お前、その左腕はどうしたんだ?」


服の袖から見えた機械鎧。こんな華奢な身体には似付かない物。


「あぁ・・・これ?昔ちょっとね・・・・」


続きがあるであろう言葉は途中で切られた。


「悪ぃ・・・」


「別にいいよ・・・エド、この後暇?」


「え・・・まぁ、別に急ぎの用事も無いし・・・」


「ならちょっと話さない?私のお気に入りの場所で。」

はそう言うとエドの手を取り、歩き出した。彼の顔は少しだけ赤くなっていた。



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