「俺が生まれる前に兄貴は錬金術をもっと知る為に、修行していたんだ。
俺は幼い頃から研究に没頭する兄貴の背中を見てきた。
だから、兄貴が国家錬金術師の資格をとった時は嬉しかった。
俺の自慢の兄さんにだから。」
ウィンリィちゃんは真剣な顔で聞いてくれた。
「でもな、心の隅では少し軽蔑してた。
『錬金術師よ、大衆の為にあれ。』
それが錬金術師の誇りだと思ってたから。
兄貴にも昔そう教えられた。」
「じゃぁ、何でお兄さんは資格を取ったの?」
「・・・あの頃、東方は治安が悪かった。今よりずっと。
そんな奴等から町を守りたい、俺達家族を守りたいって。
そう言って資格を取ったんだ。」
そう、その為の物だったのに・・・兄貴は・・・
俺は暫く言葉を切った。そんな俺を心配そうに見つめる。
「・・・俺がな、8歳だったか9歳だったか・・・ま、そのくらいの時に家族四人で出掛けたんだ。
その時に、親が目の前で殺された・・・
両親に駆け寄る俺を止めようと必死で兄貴叫んでて・・・
でも、俺にはそんな声聞こえなくて。
両親の傍に居た奴が俺に銃の標準を合わせて、引き金を引こうとした。
その時だった。今まで銃を持ってた男が居た場所から爆発が起こったんだ。
それは紛れもなく、兄貴の焔の錬成だった。」
短くなった煙草を灰皿に押し付け、また新しい煙草を口に咥えた。
「驚いて尻餅ついた俺に、兄貴は血相変えて駆け寄ってきた。
そん時は怖くて、怖くて。只泣いてた。
そんな俺を撫でようと兄貴は手を差し伸べた。だけど・・・」
「・・・辛かったらこれ以上は良いよ・・・」
「大丈夫。話すって決めたの俺だから。」
微笑んでは見たものの、ちゃんと笑えてるか不安に思った。
「俺は・・・差し伸べられた兄貴の手を振り払ったんだ。
助けて貰ったのに、睨んで、悪態ついて、挙句の果てにはその場から逃げ出した。
只怖かった。錬金術で人が死ぬのを見て。
それから数年はまともに兄貴と話さなかった。」
「数年って・・・」
「多分・・・2、3年位かな。
その間ずっと人体錬成の事を考えてた。
それを実行に移すには自分の力だけじゃどうしようもない。
かと言って、兄貴に教わる訳にも行かないから、とある錬金術師の元に弟子入りしたんだ。
エドとアルにとっては姉弟子になるのかな。」
「もしかして・・・イズミさん?」
ウィンリィちゃんから師匠の名前が出てくるとは思わず、俺は驚いた。
「知ってるの・・・?」
「リゼンブールに来た時があったから。助けてもらったよ。あの人の錬金術に。」
「そうなんだ・・・あの人何にも言ってくれないから・・・・」
やっぱり師匠は人助けをする為に錬金術を使ってるんだな・・・
「で、修行が終ってからもずっと人体の構造について研究して、実行したのが13の時。
昨日も話した通り、失敗に終った。」
左肩の付け根が少し痛み、俺は肩を抑えた。
「誰にも見つからない場所だと思ったのに、兄貴が来て、血塗れの俺を抱きかかえて病院に連れてってくれた。
『また俺は兄貴に助けられたんだな』って思った。
そしたら、今までの事がどうでも良くなって、ただ『兄貴の役に立ちたい。』って、そんな感情が俺の中に出てきたんだ。
入院中にパパが見舞いに来てくれた、胸の内を全部吐き出した。
どうしたら兄貴の役に立つのかも聞いた。
パパに言われた事はただ一つ。『お前が生きていればそれだけでいい。』だった。
その後に兄貴が入って来て『国家資格を取らないか?』って聞かれた。
兄貴の役に立つなら何でもいい。軍の狗になったって構わない。そう思ったんだ。
だから、俺は機械鎧をつけて、兄貴の補佐をしてるんだ。」
長い話が終わり、俺は溜め息を吐いた。
ウィンリィちゃんの方を見ると、沢山の涙を零していた。
「ウィンリィちゃん?」
「あ、ごめん・・・解からないけど涙が・・・」
泣きじゃくるウィンリィちゃんの背中をそっと擦ってあげた。
「ごめんな・・・こんな湿っぽい話ししちゃって・・・」
「大丈夫・・・話してくれてありがとう。。」
泣きながらでも満面の笑みで微笑んでくれるウィンリィちゃん。
俺の大切な人、一人増えちゃった。
「でも、どうしてヒューズさんの事『パパ』って呼んでるの?」
最もな疑問。
「あ〜〜・・・最初に言い出したのはパパの方なんだよねぇ・・・
機械鎧を着ける為に中央に来た時に『よし、今日から俺の事パパと呼べ』って。
何の突拍子も無く言われてさぁ・・・
まぁ俺、親父っ子だったから、違和感無かったんだけど・・・」
人体錬成した時も親父が先だったなぁ・・・
「ヒューズさんらしいね。」
「世話焼きなのは昔から、ってね。最近ではグレイシアさんの事も『ママ』って呼ぶようになった。
あの人達は俺の第二の家族みたいだからさ。
帰る家があるって良いなぁって思ったし。」
「彼奴等とは大違いだね。」
「そうかもな。
まぁ、あれはあれで彼奴等の決意の証みたいだし。
でも、帰りを待ってくれる人がいるなら、そこは彼奴等の家なんだ。」
滅多に立ち寄ろうとしないけど。
「ホント、もう少しこまめに帰って来てくれないと、機械鎧の整備も出来やしない。
帰って来たと思ったら機械鎧は壊してるし。」
「はははは。」
ウィンリィちゃんの言葉に苦笑するしか出来ない。
「俺もこの前派手に壊したからなぁ・・・
頭下げても足らない程に・・・」
「そんなに壊したの?」
「腕も足もバラバラ。
新しく作り直さなきゃ駄目なくらいに。」
「機械鎧は大切にしなきゃ駄目よ?」
ウィンリィちゃん・・・目が怖いです・・・(汗
「解かってるって・・・毎日磨いてるし、油さしてるし・・・」
「それなら良かった。ホントにエドとは大違い。」
「はははははは」
ウィンリィちゃんの言葉に苦笑するしかない俺・・・
「エドももうちょっと機械鎧大切にしてくれたらなぁ・・・」
少し悲しげな顔で空を見上げるウィンリィちゃん。
ウィンリィちゃんは気付いてるのかな?
整備師は装着者にとって大切な存在だって事。
「さ、湿っぽい話は此処で終了!
さ、世話の焼ける馬鹿兄弟の所に戻りますか。」
「うん。」
さぁ、馬鹿兄弟の所に戻ってさっさと行き先決めて貰わなきゃな。
じゃなかったら、パパの仕事また手伝わされる・・・(汗
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