「さぁてと・・・今日はレコーディングだぁ〜〜〜・・・」
自分の曲を作詞してデビューしたは今日の為の新曲を一晩中聞いていた。
「グリ兄、朝ご飯できてる?」
「たまには自分で作れよ・・・ι」
かつて『強欲』のグリードと呼ばれた男は、エプロン姿で台所に立っていた。(笑)
「え〜〜〜・・・」
「え〜〜〜じゃない。」
右拳を鋼鉄に代え、の頭を殴る。(痛いって。)
「痛いって!!死んじゃうじゃん!!!」
「死なねぇから安心しろ。そこまで強く叩いてねぇ。」
とか言いながら、の頭からは大量の血が。
「私じゃなければ死んでるって・・・」
「お前にしかやらないから安心しとけ♪」
「当たり前じゃん!!この世の中でやったら、殺人犯でつかまるよ!!」
頭を擦りながら朝食を食べる。何時の間にか彼女の傷口は塞がっていた。
「それより、彼奴の情報はないのかよ。もう結構経つぞ?」
「そんなの私が解かる訳ないじゃん。暫くは此処に居るしかないし・・・」
そう言いながら時計を見てみる。
「げ、そろそろマネージャーがく・・・」
――ピーンポーン――
が言い終わる前に、玄関のチャイムが鳴った。
「ティア!!早くしなさい!!レコーディングに遅れるわよ!!」
「今行きます!!」
ドタバタと支度を始める。
「あ、グリ兄。今日は早めに帰って来れるから晩御飯の支度はするよ!!」
「気を付けて行って来いよ。」
「グリ兄も仕事ガンバ!!」
慌しく出て行くを見送ると、グリードも仕事の支度を始めた。
レコステへ到着したは、すぐにレコーディングを開始した。少し悲しげな音楽が始まり、は歌い始めた。
『私はずっと 君を探していた
私を見つけてくれた君の事を
『今度は私が見つける』
その言葉を呟き 君の横顔を見つめた
約束から随分と時が経ってしまったね
未だに君を見つけられない自分が居る
ねぇ、君は何処に居るの?
解からないから・・・
せめて居場所だけでも教えて・・・
君は今 何処に居るんだろう
闇雲に探すのには 疲れた
『必ず見つけろよ』と君は言ってくれた
だから私は 君の事を探しているの
約束から随分と時が経ってしまったね
君が何処に居るのかすら解からない
ねぇ、君は何処に居るの?
ずっと君だけを探し続けてる
私はどうすればいいの・・・
君に逢える事 夢に見ながら眠りにつく
夢の中では 二人笑っているの
目が覚めると突きつけられる現実
君は此処には居ない
ねぇ 君は何処に居るの?
解からないから・・・
でも 必ずみつけるからね
君の事を
また逢える日を 夢に見ながら』
彼女が書いたこの歌詞には、意味があった。
エドがこれを聞いていて、少しでも自分の事を思い出してくれたら、と。
「OKでーす。」
スタジオ内に響いたOKサイン。
「お疲れ、ティア。」
「お疲れ様です。マネージャー。」
「今日の仕事はこれだけだから・・・どうする?学校に行く?」
「いい加減に行かないと単位取れませんし・・・ι」
の言葉に同意したのか、マネージャーは学校まで送ってくれた。
「明日は夜から生放送が入ってるから。デビュー曲のお披露目。」
「解かりました。それでは、また明日。」
車を見送ると、疲れたような顔をする。彼女がアーティストになった目的は、エドが気付いてくれるようにと思う気持ちだけだった。
午前の授業を一限だけでも受けられ、ホッとしている。授業終了のチャイムと同時に、彼女は屋上へと上った。
屋上が彼女の特等席。芸能人な為、彼女の陰口を言う者や、嫌がらせをするものが居る為、何時も一人での昼食。
「さっすがグリ兄。ご飯メッチャ美味しい♪」
昼食を楽しんで食べていると屋上のドアが開いた。そこに立って居たのは、彼女をよく思っていないクラスメイト達三人だった。
「屋上でのんびりとは、芸能人はすごいわね。」
嫌味っぽく言うクラスメイトを無視し、はドアへ向った。
「何?シカト?」
「・・・るせぇんだよ・・・」
ボソッと呟く。
「は?なに?聞こえないんだけど?」
「煩ぇつってんだよ!!!グダグダ言ってねぇでどけよ!!!」
大体の人間はこれぐらいで引くのだが、このクラスメイト達は違った。
「は?何生意気な事言ってるのよ!!」
強く身体を押され、彼女の身体は壁にぶつかった。
「大体さぁ、何であんたみたいなのが芸能活動やってる訳?」
「そうそう。本当に生意気だよね?最近デビューしただけで鼻高々になっちゃって。」
「煩るせぇな!!んなもん、私の勝手だろう!!」
鋭く睨みつける。この一言がクラスメイトの怒りに火を付けた。
「番組出れないように顔に傷つけてやるよ!!!」
一人が平手打ちをしようと右手を上げたその時だった。
――バシャ!!――
頭上から大量の水が降ってきた。
「ちょっと!!何すんのよ!」
(私、何も錬成してないんだけど・・・てか、何で私まで濡れなきゃいけないの?)
上を見てみると、一人の青年が顔を出していた。
「悪い悪い。余りにも煩かったからさ。頭冷やしてやろうと思って。」
そう言うと、青年は梯子を使わず飛び降りてきた。
「先輩!!」
「それで、まだ何か言いたいことでもあるのか?」
黒い笑みを浮べた青年を怖がりながらクラスメイトは屋上から出て行った。
「・・・取り敢えず助けてくれてありがとう。」
少し睨みながらも青年を見る。一瞬彼女の顔色が変わった。
助けてくれた青年がエドにそっくりだったからだ。
「どうした?」
「なんでも・・・でもさぁ・・・もう少しマシな助け方があるんじゃないの?これじゃ風邪ひくし。」
「助けてもらった奴にそう言う言い草はねぇんじゃねぇ?」
はそっぽを向きながら両手を合わせ、自分の服へとつけた。一瞬にして、服についていた水が水蒸気に錬成された。
「お前、錬金術師?」
「そうだけど?」
エドに似た青年はワクワクした表情でに詰め寄った。
「初めて俺と同い年の錬金術師見た・・・」
「は?」
「なぁ、俺の錬金術も見てくんねぇ?」
「別に・・・構わないけど・・・」
よっしゃ!とガッツポーズをし、両手を合わせ床へつけた。その行動には目を見開いた。
「こんなもんなんだけど・・・どう?」
「ちょっとごめん。」
は青年に近付き、右腕を掴んだ。
「な、何すんだよ!!!」
「機械鎧・・・」
掴んだだけで機械鎧と解かった。青年の肩が少し揺れた。
「率直に聞く。真理を・・・扉を開いたの?」
「・・・何の事だ?」
「もう一回聞く・・・禁忌を犯した?」
青年は黙ってしまった。
「正直に言って。周りに話すような事はしないから。」
「・・・母親を錬成した・・・そしたら・・・弟と俺の左足持ってかれて・・・」
「右腕は?」
「・・・弟の魂と引き換えに・・・」
今も昔も変わらずか・・・と呟き、は腕を離した。
「弟は?何処に居るの?」
「家に居る・・・外には出れないから・・・」
彼は右腕を抑えながら呟いた。
「そっか・・・」
そう言うとは屋上から出るドアに向った。
「お前・・・名前は?」
今まで名前を名乗っていなかったのをすっかり忘れていた。
「・・・・・・・。」
「・って・・・錬金術の歴史の本に乗ってた奴と同姓同名だ。」
「歴史?なにそれ?」
「これ。」
そう言って取り出したのは一冊の本。青年は言っていたページを開き、に見せた。
「『・中将。僅か16歳にして中将に上り詰めた錬金術師。二つ名:氷水の錬金術師。』顔写真まで載ってる・・・ι」
載っているのが自分の為、少し照れる。
「顔写真も何処となく似てるよな。」
「んなことない。」
「んで、俺の名前が、この人と同じなんだ。」
そう言ってまたページを開き、に見せる。
「『エドワード・エルリック・・・・・・』」
「そう。俺の名前はエドワード・エルリック。一応帰国子女な。でも、此処に書いてあるエドワードは凄いよなぁ・・・12歳にして国家錬金術師なったんだからな。」
「エドワードは何時頃から錬金術覚えたの?」
「俺の方が年上なんだぞ!!せめて『先輩』くらいつけろよ!!」
「無理。どう見ても私の方が年上に見えるから。」
「・・・・俺は、小さい時から。親父の部屋に沢山の錬金術の本があって色々見てたんだ。でも、独学じゃ限界あるって師匠に学んだ。」
少し落ち込んだエドの頭を撫でる。
「何すんだよ!!」
「何となく♪」
「だ〜〜〜!!!やめろよ!!!」
子ども扱いをされ、向きになるエド。
「やっぱり昔と変わらないな・・・」
エドに聞こえないようには呟いた。
「へ?何か言ったか?」
「なんでも無い。私はお昼休みは此処に居るから。じゃ、またね。おチビ先輩♪」
「誰が豆粒どチビか〜〜〜〜〜!!!!」
扉越しに聞こえるエドの叫び声。その反応が昔と変わらず、思わず笑みを漏らす。
「エド。今度は私が見つけたからね。でも、気付いてくれないと意味ないよ?」
そう呟くと、下り階段を降りていった。
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