不思議な・・・不思議な夢・・・
一面の蓮畑・・・
隣には柔らかく微笑む黒髪の男・・・
目は水を思わすような碧色・・・


第四章『夢 〜前世〜』


『何があっても、お前を守っていく。
それが、け・・・・・・ん大将との約束だからな。』


『・・・い・・・う、ありがとう。
貴方だけね、い・・・んじの私の事を気に掛けるのは。』


所々聞き取れない・・・
碧・・・長髪の女は誰なんや・・・?


開けた目の色は・・・太陽を思わせる程の金色・・・


『でもね・・・い・・・う。私は罪を犯したといって、下界に転生されるの。
そしたら、貴方の事も忘れるのかな?
け・・・・・・の事も、忘れちゃうのかな?』


『そんな悲しい顔をするな。
私は、貴女が私の事を忘れてもずっと傍に居る。
観世音様に、頼んでおいた。』


観世音・・・あの神様の事か・・・?


『姿形が変わろうと、私は貴女の傍に居る。』


『ありがとう・・・』


水萍すいひょう・・・。」


口から漏れた言葉。
誰の名前かはわからない。
でも・・・確かに俺はこの名前を知ってる・・・


「涙・・・?」


俺の頬を伝うのは涙。
泣いたのなんて何年ぶりなんやろ・・・


「一体・・・アレは誰や・・・?」


俺はあの姉さんから貰った剣を握った。
何処か懐かしく・・・手に馴染む・・・
俺は・・・この剣を見た事あるんちゃうんか?


。何ボーとしてんだ?」


声のする方に目を向ける。
そこには支度を済ませた悟浄が煙草をふかしていた。


「いや・・・何でもない・・・」


「訛り・・・抜けてねぇぞ。」


呆れ顔で俺のデコを突っつく。


「んな、1日2日でどうにかなる訳ないやん。」


そう、悪戯っぽく笑う俺。
少しでも直そうと思ってるんやけど・・・
直らんのが現実。


「んで・・・水萍すいひょうって誰だ?
お前のダチか?」


「あぁ・・・寝言聞いてたんだ。」


「アレは寝言じゃねぇだろ。」


確かに・・・起きてから言うたもんな・・・


「俺も知らん。誰の名前かも・・・
それに俺、ダチなんて居なかったし。」


寧ろ、ダチなんて作れる環境やなかったしな。


「ま、起きたならさっさと支度しろ。」


「支度・・・?」


悟浄に言われ俺は頭を傾げた。


「お前なぁ・・・
服買いに行くんだろ?」


あ、そうやった。って・・・


「朝飯は?」


「んなもん、とっくに食った。
今何時だと思ってるんだ?」


悟浄に言われ、俺は自分の腕時計を見た。


「・・・マジで?」


時計は12時を指していた。


「出発は明日って八戒が言ってたから、今日中に買い込めば大丈夫だろうよ。」


「・・・何で起こさなかったん?」


「お前がスヤスヤと気持ち良さそうに寝てたから。」


・・・さいですか。


「昼飯食ってから行くか?」


「悟浄はどうすん?」


「俺は・・・町で適当に食えば良いって考えてるけど・・・」


「それに便乗。」


「ォィォィ・・・」


悟浄の呆れ顔が面白くて思わず笑った。


「んな笑うなよ。
ほら、行くぞ。」


「あ、待ってぇな!!」


急いでベッドから身を起こし、悟浄の後を追う。


「っと・・・お前、一応剣だけは持ってけよ?」


「何で?」


「何でって・・・何時妖怪が襲ってくるかわからねぇだろ?」


そう言う事か・・・
長剣って持ちにくいんよ〜〜〜。
とか思いつつ、ズボンのベルトの隙間に押し込んだ。


「ついでにコレ入れるのも買わないと・・・」


「だな。
んじゃ、ちゃっちゃと済ませますか。」


「おう。」


こうして俺等は町に繰り出した。
のはいいものの・・・


「コレお前に似合うんじゃないか?」


そう言って悟浄が手に持っていたのは女物のスカート。


「コレで戦えと?」


「おうよ。」


止めてくれ・・・(汗


「女らしい格好は俺には似合わない。」


「んな事ねぇだろ?」


「似合わねぇよ!!」


服屋で口喧嘩。
やっとの事で悟浄をメンズ服を扱ってる服屋に連れ込んだ。


「やっぱ、こっちの方が落ち着く・・・」


「根っからの男だな・・・お前は・・・」


「別に良いだろう?」


悟浄と話してると、自然に標準語に戻る。
元々、関東出身の俺には標準語に戻すのは簡単な事だった。


適当に服を漁り、ようやく一息ついたのは夕方だった。
俺等は休憩を兼ねて、喫茶店に寄った。


「結構遅くまで掛かったな・・・」


「悟浄が余計なもん見るから・・・」


「女に女物の服を勧めて悪いか?」


「悪い。」


俺の言葉に落ち込んだ悟浄。
ちょっと面白いかも。


「んだよ・・・つまんねーな・・・」


つまんなくて結構。
俺は女モンなんか着る気は無い。


「つーか、スカートが嫌いなだけ。」


俺の足なんて目に毒。


「そうか?」


「そう。」


取り合えず、一息ついて俺等は宿屋に戻った。


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