俺はガラにもなく一人の女に惚れた。
ホントガラじゃねぇな。この俺が誰かに惚れるなんて。
ま、その相手は俺の気持ちなんて知らねぇだろうけど・・・
勝気で、男勝り・・・てか、男っぽくて。
寧ろ『男?』みたいな女。
俺と同じ髪、俺と同じ瞳。
彼奴に惚れてから夜遊びはしてない。
ここ2週間はご無沙汰だなぁ・・・
「悟浄・・・何考えてんだ?」
ジープでの移動中、俺は周りの景色ばかり見ていた。
黙ってる俺に、は話し掛けてきた。
「いや、何にも考えてねぇけど?」
何時もの調子で言うと、は何処となく微笑んでくれた。
それが嬉しくて、俺はの頭を撫でた。
「・・・団体様が来るよ?」
は笑顔で俺達に言った。
コイツは妖気に敏感なのか、俺達が気付かなくても妖怪の数を察知する。
「へぇ・・・どのくらいですか?」
「200〜300って所かな?
結構数多いと思う。」
この所、団体さんが毎日襲ってくる。
・・・ま、俺たちには支障はないと思うけど。
「後数分で姿見えると思うよ〜〜〜。」
呑気にそんな事を言う。
コイツも色んな意味で楽しんでやがるな。
「ほら、見えた見えた。」
が指差す前方に、が言った通り団体さんが見えた。
「ちゃっちゃと片しましょうか?
このままじゃまた野宿ですよ?」
「。お前が片せ。」
「三蔵、それ酷くない?」
三蔵の言葉には口を尖らせた。
「貴様が悪い。」
「何でだよ!!」
「三蔵一行!!今日こそ経文と貴様の命を・・・」
妖怪が目の前で騒いでても何の気にも止めない。
「野宿になったのは誰の所為だ?」
言葉を詰まらせる。
昨日、が迷子になった所為で野宿。
それを気にして、はジープから降りた。
「わかったよ!!俺がやれば良いんだろう!!」
そう叫びながら、は剣を抜いた。
「〜〜。俺も手伝うか?」
「いい!!俺一人でやる!!」
俺の申し出を簡単に断る。
ま、別に良いけど・・・
確かに、昨日は俺の所為だけど、俺一人にやらせなくてもいいじゃねぇかよ!!
って、そんな事言ったら、三蔵のハリセンの餌食になるから何も言わずに俺は妖怪の群れを見据えた。
「は、お前一人でどにかなるとでも言うのか?!」
煩るせぇな・・・妖怪風情が。
「うざってぇんだよ!!」
戸惑う事無く剣を振るう。
コレが今の俺の日常。
200〜300の妖怪なんて、俺には何の負担にもならない。
・・・いい運動程度?
ものの数十分で全ての妖怪を退治ってね。
「っ・・・!!」
急に痛みを感じ、俺は剣を地面に刺し蹲った。
「!!」
悟浄が俺を心配して駆け寄ってきた。
他の皆も、悟浄に続くように俺の所に来る。
「どうしたんだ!?!!」
悟浄に支えられ、俺は立ち上がった。
胸のあたりが痛い・・・それ以上に頭が割れるように痛い・・・
一体・・・何なんだ・・・?
『気付け・・・私が傍に居る事を・・・』
「誰・・・だ・・・?」
直接頭に響くような声。
痛みを抑え、俺は周りを見渡した。
『貴様の直ぐ傍に居る。』
一体・・・誰なんだよ・・・
「・・・?」
悟空が心配そうな表情で俺を見る。
でも、今の俺には笑顔を見せる余裕も無い。
『貴様は今、何体の妖怪を切ってきた?
何体の妖怪の血を浴びた?』
んなもん、いちいち数えてる訳ねぇだろ。
『これ以上、妖怪を切る前に力を取り戻せ。』
・・・は?
『これ以上、妖怪の血を浴びる前に力を取り戻せ。
でないと貴様が・・・』
何かを言いたかったのだろうが、俺はそこで意識を手放した。
・・・これ以上妖怪の血を浴びると?
俺がどうなるって言うんだ?
宿の一室。そこでは死んだように寝ていた。
今夜の部屋割りは僕との同室。
を見てみると、何かに魘されているようにうめき声を上げていた。
「い・・・やだ・・・これ・・・以上・・・
これ以上・・・彼等を・・・巻き込まないで・・・」
「・・・」
を起こすように、僕は彼女の方を揺すった。
「・・・天蓬・・・元帥・・・?」
「僕は八戒ですよ?」
まだ、覚醒しきっていないの目。
彼女の眼の色が違う事に気付いた。
金色の・・・悟空と同じ瞳。だけど左右が違う。
右目だけ金色・・・左眼は、月を思わせる白銀。
「天・・・蓬・・・」
僕と誰かを見間違っているのだろう。
肩口で泣くの頭を僕はそっと撫でた。
「犠牲になるのは・・・私だけで十分なんです・・・」
普段のからは想像できない言葉。
彼女の方を掴み、見を剥がし彼女の眼を見つめた。
その瞳は虚ろで、僕じゃない物を見ているように見えた。
「天蓬・・・?」
「僕は八戒です。」
そう、キッパリと言うと、は悲しそうな表情をした。
「・・・そう・・・ね・・・彼が生きているはず・・・ないもの・・・」
じゃない。
「貴女は・・・じゃないですね。」
今のは、じゃない。
僕は頭の奥でそう思った。
「・・・?今の私の名前なの?」
そう首を傾げる彼女。
「貴女は誰ですか?」
真剣にそう、問い掛けても微笑みだけしか見せない。
僕から離れ、彼女はベッドから離れた。
「水萍、貴方ならわかるかしら?
・・・この子は何人の妖怪の血を浴びた?」
この部屋には僕と彼女しか居ない。
何に、彼女は誰かに話し掛けるように呟いた。
「そう・・・なら早めに手を打たなければならないわね・・・」
そう言って、僕の方を見た。
「彼女に、これ以上妖怪を切らせない方が良いわよ。」
「何故ですか?」
彼女に言われた事に対し、訳がわからない。
「何故って・・・貴方ならわかるでしょう?
千の妖怪の血を浴びた、人間さん。」
その言葉を聞いて、僕ははっとした。
が来てから止め処なく妖怪に襲われる。
=が妖怪になる日も近い・・・
「彼女の力が戻るまで・・・だけどね。
一応、彼女は人間じゃないから。」
そう言うと、彼女は崩れるように倒れこんだ。
「!!」
僕が掛けより、身体が床に触れる寸前で受け止めた。
「・・・ん・・・八戒・・・?」
眼を開けた彼女の瞳は、何時もと同じ紅い瞳。
「って!!なんで八戒に抱きしめられてんの!?」
驚いた様に、僕の身体を剥がす。
何時もの。
「俺何かしたのか?」
「覚えて・・・ないんですか?」
僕の問い掛けに首を傾げるだけの。
「覚えてないなら良いんです。」
そう言って、僕は扉の方に向かった。
「八戒?」
「はゆっくり休んでてください。
僕はちょっと三蔵の所に行って来ますから。」
パタンと、小さく音を立てて扉がしまった。
僕はそのまま、三蔵の部屋に足を向けた。
「三蔵、入りますよ。」
扉を開けると、煩い位に騒がしい人達が眼に入った。
三蔵と悟空と悟浄は同室。
この方が話しやすいかも知れませんね。
「皆さん・・・ちょっと良いですか?」
「に何かあったのか?」
心配そうな顔をする悟空。
「は大丈夫ですよ。今、目が覚めましたから。」
僕がそう言うと、悟空は安心した表情を前面に出した。
悟浄も、気付かない程度に口の端を上げている。
「取り敢えず、皆さんに言っておきたい事があります。」
真剣な目付きで僕は話し始めた。
「千の妖怪の血を浴びると妖怪になるって事、知ってますよね?」
実際、僕がその例に当てはまる。
「自身も・・・多分危ないと思うんですよ。」
「・・・人間離れしてるが、実際は人間だからな。」
三蔵は理解したのか、そう言った。
「これ以上、を戦いに加えると・・・も妖怪になってしまう危険性がある・・・」
「・・・それだけは避けてぇな・・・」
そう言って、悟浄は煙草をふかす。
僕は気付いているんですよ?貴方がに惚れている事。
「俺たちがを守れば良いんだろう?」
単純に言う悟空。
「彼女が、簡単に護られると思いますか?」
「思わない・・・」
「悟空・・・ι」
そう、誰よりも負けず嫌いで、誰よりも勝気な彼女が、そう簡単に護られるはずか無い。
そう、認識しているの僕だけじゃない。
「兎に角、この事はに話してみます。
それで引き下がってくれればいいんですが・・・」
そう言い残して、僕は三蔵達の部屋を出て行った。
今は、じゃないの話はしない方がいい。
八戒の様子が変だった・・・
俺・・・やっぱり何かしたのかなぁ・・・?
「・・・力を取り戻せ・・・」
妖怪との戦いの後、聞こえた声。
一体、どういう意味なんだ・・・?
「てか・・・誰なんだろう・・・」
そっちの方が気掛かり。
でも、懐かしくて・・・何時も傍にいた存在だと俺は感じた。
考え込んでいると、部屋の中に光が充満した。
「・・・っ!!何だよ!!」
眩しい光に思わず眼を閉じる。
光が収まった時には一人の人が立っていた。
あんま好きくない・・・
「観世音菩薩。」
「お、ちゃんと俺の事覚えてたのか?」
何の説明も無く、俺を此処に連れてきた張本人。
忘れたくても忘れられねぇよ。
「一体何の用だよ・・・」
俺は呆れたように言葉を漏らした。
「いや・・・もうそろそろヤバイと思ってな。」
「は?何が?」
ベッドに腰を掛けている俺に近付く観世音菩薩。
「全てを思い出さないと、お前がやばくなるぞ。」
そう言って、俺の額に手を当てた。
その瞬間、何かが俺の中に入り込んできた。
「お前・・・一体何した・・・?」
頭が痛い・・・苦しい・・・一体・・・?
「妖怪になる前に力を取り戻せ。
でないとお前が、妖怪になるぞ。」
朦朧とする意識の中、観世音は哀しそうな顔をしていた。
「これで・・・良かったのか・・・?・・・」
「良いんですよ・・・これで。」
「水萍。聞いてたのか?」
「はい。
・・・これが、彼女の・・・太子が望んだ事なんですから。」
――生まれ変わっても、あの四人と居たい・・・――
これがとの約束・・・
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